所有権移転外ファイナンスリース取引の借手側の仕訳・会計処理

ファイナンス・リース取引は、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの(所有権移転ファイナンス・リース取引)と、それ以外の取引(所有権移転外ファイナンス・リース取引)に分類することができます。このうち、所有権移転外ファイナンス・リース取引の借手の会計処理は以下の手順でおこないます。

1.リース取引開始時の仕訳・会計処理

ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。借手の行ったリース取引が所有権移転外ファイナンス・リース取引であると判定された場合には、リース取引開始日において、リース物件とこれに係る債務を、『リース資産』(または『機械装置』や『備品』勘定などの各固定資産勘定)及び『リース債務』勘定として資産・負債にそれぞれ計上します(リース取引に関する会計基準第16項、リース取引に関する会計基準の適用指針第21項参照)。

(仕訳・リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
リース資産 リース債務

なお、『リース資産』及び『リース債務』として計上する金額(リースで取得する固定資産の取得価額相当額)については、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は以下のように算定します(リース取引に関する会計基準の適用指針 第22項等参照)。

(所有権移転外ファイナンスリースのリース資産計上額の算定)
1.借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかな場合は次のいずれかのうち低い価額による

・リース料総額の割引現在価値※
・貸手の購入価額等

2.借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかでない場合は次のいずれかのうち低い価額による

・リース料総額の割引現在価値※
・借手の見積現金購入価額

※ 現在価値の算定のために用いる割引率は、借手が貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率とし、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率を使用します(リース取引に関する会計基準の適用指針 第17項参照)。

なお、リース契約に残価保証の取り決めがある場合は残価保証がある場合(ファイナンス・リース取引)の仕訳・会計処理を合わせてご参照ください。

2.リース料支払時の仕訳・会計処理

所有権移転外ファイナンス・リース取引において、借手がリース料を支払った時はリース取引開始時において計上したリース債務を減額して処理します。なお支払ったリース料についてはリース債務の元本相当額の返済部分のほかに利息分が含まれることになりますので、支払ったリース料のうち利息部分に該当する金額については『支払利息』勘定を使って費用処理します。

(仕訳・リース料支払時)
借方 金額 貸方 金額
リース債務 現金預金
支払利息

上記のようにリース料総額は、利息相当額部分とリース債務の元本返済額部分とに区分計算し、前者は支払利息として処理し、後者はリース債務の元本返済として処理します。全リース期間にわたる利息相当額の総額は、リース取引開始日におけるリース料総額とリース資産(リース債務)の計上価額との差額になります(リース取引に関する会計基準の適用指針 第23項等参照)。

利息相当額の総額をリース期間中の各期に配分する方法(支払利息の算定方法)は、原則として利息法によります。利息法とは、各期の支払利息相当額をリース債務の未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定する方法をいい、当該利率は、リース料総額の現在価値が、リース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額と等しくなる利率として求められます。
この方法によって支払利息を算定する場合、各リース料の支払額に占める支払利息および元本返済部分の額は以下の算式によって算定します。

(支払利息およびリース債務返済額の計算)
支払利息相当額:リース債務の未返済元本残高×利率※
リース債務元本返済額:支払リース料-支払利息相当額

※ 当該利率は、リース料総額の現在価値が、リース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額と等しくなる利率として求められます。例えば、リース資産(リース債務)計上額について、リース料総額を借手の追加借入利子率で割り引いて算定した場合は当該追加借入利子率を使用することになります。

※所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合において一定の条件を満たす場合は定額法により利息配分額を算定できます。詳細は4.簡便な取り扱いをご参照ください。

3.決算時の仕訳・会計処理(減価償却等)

ファイナンス・リース取引のリース物件については通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。リース物件については、そのリース取引開始時において資産計上しているため、決算時において減価償却費の計上が必要となります。
所有権移転外ファイナンス・リース取引に係るリース資産の減価償却費は、原則として、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します。
また、リース資産の償却方法は、定額法、級数法、生産高比例法等の中から企業の実態に応じたものを選択適用します。なお、所有権移転外ファイナンスリース取引の場合、自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定する必要はありません。(リース取引に関する会計基準第12項後段、リース取引に関する会計基準の適用指針第27・28項等参照)。

(仕訳・減価償却費)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 減価償却累計額

なお、リース債務については、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものは流動負債の区分に表示し、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものは固定負債の区分に表示することになります(リース取引に関する会計基準 第17項参照)。

4.簡便な取り扱い(所有権移転外ファイナンス・リースのみ)

所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、リース資産総額に重要性が乏しいと認められるなどの場合は以下のように簡便な取り扱いが認められます(リース取引に関する会計基準の適用指針 第31項等参照)。

1.リース資産及びリース債務の計上額について、リース料総額で計上で計上することができます(利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法)。この場合、支払利息は計上されず、減価償却費のみが計上されることになります。

2.利息相当額の総額をリース期間中の各期に配分する方法として、定額法を採用することができます。 この場合、各期に計上される支払利息は毎期同額となります。

なお、リース資産総額に重要性が乏しいと認められるなどの場合とは、未経過リース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合をいいます (リース取引に関する会計基準の適用指針 第32項等参照)。

また、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引であり、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいと認められる所有権移転外ファイナンス・リース取引については、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて処理することができます(リース取引に関する会計基準の適用指針 第34・35項等参照)。

(具体例-所有権外移転ファイナンスリース取引・借手)

当社は×1年4月1日(期首)に以下の条件でリース契約(所有権外移転ファイナンス・リース取引に該当する)を締結した。以下の時点における仕訳をそれぞれ示しなさい。

1.×1年4月1日(リース取引開始時)
2.×2年3月31日(リース料支払時)
3.×2年3月31日(決算整理仕訳)

1.リース期間4年
2.借手の見積現金購入価額36,000円 (貸手の購入価額等は不明)
3.リース料の支払は毎年3月31日に1年分のリース料10,000円を後払い
4.リース物件の経済的耐用年数は5年
5.当社(借手)の減価償却方法は定額法であり、残存価額0円として算定する
6.当社(借手)の追加借入利子率は年8%(貸手の計算利子率は不明)
7.リース取引開始日はX1年4月1日、当社の決算日は3月31日である
1.×1年4月1日(リース取引開始時)の仕訳

ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。すなわち、リース物件の取得価額相当額について『リース資産』勘定及び『リース債務』として資産・負債にそれぞれ計上します。
なお借手の資産(負債)計上価額について、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、次のいずれかによることになります。

・貸手の購入価額等が明らかな場合はリース料総額の割引現在価値と貸手の購入価額等のうち、いずれか低い金額
・貸手の購入価額等が明らかでない場合はリース料総額の割引現在価値と借手の見積現金購入価額のうち、いずれか低い金額

本設問では借手である当社は貸手の購入価格等を知り得ないため、以下の金額により計上額を算定することになります。

(計算過程)
・リース料総額の割引現在価値:10,000円/(1+0.08)+10,000円/(1+0.08)^2年+10,000円/(1+0.08)^3年+10,000円/(1+0.08)^4年=33,120円

・借手の見積現金購入価額:36,000円

∴33,120円(割引計算に用いる利率は借手の追加借入利子率によります)。

(仕訳・リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
リース資産 33,120 リース債務 33,120
2.×2年3月31日(リース料支払時)

所有権移転外ファイナンス・リース取引において、借手がリース料を支払った時はリース取引開始時において計上したリース債務を減額して処理します。なお支払ったリース料についてはリース債務の元本相当額の返済部分のほかに利息分が含まれることになりますので、支払ったリース料のうち利息部分に該当する金額については『支払利息』勘定を使って費用処理します。
支払ったリース料のうち元本返済部分と支払利息部分との区分については、まずリース債務の未返済元本残高に一定の利率を乗じて支払利息を算定し、これをリース料支払額から控除してリース債務元本の返済額を算定します。なお当該利率は、リース料総額の現在価値が、リース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額と等しくなる利率として求めらます(本設例では借手追加借入利子率8%を使用して割引計算を行い、これをリース債務として計上しているため当該利率を使用します)。

(計算過程)
支払利息:未返済元本残高33,120円×利率8%×12月/12月=2,650円
元本返済額:リース料支払額10,000円-支払利息2,650円=7,350円

(仕訳・リース料支払時)
借方 金額 貸方 金額
リース債務 7,350 現金預金 10,000
支払利息 2,650
3.×2年3月31日(決算整理仕訳)

ファイナンス・リース取引のリース物件については通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。リース物件についてはこれを資産計上しているため、決算時において減価償却費の計上が必要となります。
所有権移転外ファイナンス・リース取引に係るリース資産の減価償却方法については、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します。
したがって、本設問ではリース期間4年、残存価額0円をもとに定額法で償却計算をおこないます。

(計算過程)
減価償却費:リース資産33,120円÷リース期間4年×12月/12月=8,280円

(仕訳・減価償却費)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 8,280 減価償却累計額 8,280

(関連項目)
ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引
所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンス・リース取引
所有権移転ファイナンスリース取引の借手側の仕訳・会計処理
ファイナンス・リース取引(リース料の支払いが前払いの場合)の仕訳
残価保証がある場合(ファイナンス・リース取引)の仕訳・会計処理
維持管理費用相当額(ファイナンスリース取引)の借手の仕訳・会計処理
リース取引の貸手(取引開始日に売上計上する方法・リース投資資産)の仕訳

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