工事進行基準の仕訳・会計処理

建設業における請負工事など、工事契約に関する収益・原価の認識基準(いつ売上を計上するのかの基準)には工事進行基準と工事完成基準とがあります。このうち工事進行基準とは、工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。すなわち進行基準では、たとえ工事の完成前であっても、工事の進捗状況の見積りなどに応じて売上収益を計上することになります(工事契約に関する会計基準第6項参照)。

なお、工事収益総額・ 工事原価総額・決算日における工事進捗度などを信頼性をもって見積もることができる限り、工事収益の認識基準としては工事進行基準を採用することが必要となります(適用関係に関する詳細は工事進行基準と工事完成基準の概要と適用関係をご参照ください)。

工事進行基準の手順1-未成工事支出金の集計

まず、工事を進めるに当たって発生した原価(材料費・労務費・経費など)を『材料費』勘定などから『未成工事支出金』勘定へと振り替えます。『未成工事支出金』勘定は製造中の工事原価を集計する勘定科目であり、工業簿記における『仕掛品』勘定に該当します。
なお、この振替は決算時にまとめて行います(一般的には商的工業簿記を前提としますので、原価の振替は決算時にまとめておこないます)。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 材料費
労務費
経費

工事進行基準の手順2-工事収益の算定

次に、当期に計上すべき工事収益(売上高)を算定します。工事進行基準では各期の工事の進捗状況の見積りを行い、これを工事収益総額(請負金額総額など)に乗じることによって、当期に計上すべき収益を算定することになります。この時、工事の進捗状況の見積りについては、当期までに発生した実際の工事原価を工事全体の見積総工事原価で割ることにより、当期までの進捗度を算定します(これを原価比例法といいます。工事契約に関する会計基準第6項第7号参照)。

(工事の進捗度の見積り-原価比例法)
当期末までの工事進捗度=当期末までに発生した実際の工事原価/見積総工事原価
(当期の収益計上額)
当期の収益=工事収益総額×当期末までの工事進捗度-前期末までに計上した収益※

※ 工事2期目以降に計上する工事収益は工事収益総額に当期末までの進捗度を乗じた金額から、前期までに計上した収益を控除する必要があります。

上記の算式によって算定した工事収益は『完成工事高』勘定と『完成工事未収入金』勘定を使って処理します。『完成工事高』勘定と『完成工事未収入金』勘定は一般商品売買における『売上』勘定と『売掛金』勘定にそれぞれ該当します。

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金
(売掛金)
完成工事高
(売上)
未成工事受入金
(前受金)

※ 『未成工事受入金』(一般商品売買における前受金勘定に該当)を事前に受け取っている場合は工事収益にこれを充当し、残額を『完成工事未収入金』として処理します。

工事進行基準の手順3-完成工事原価の計上

工事進行基準では、工事完成前であってもその進捗状況に応じて、収益・原価の計上を行います。当期に発生した原価は上記1において『未成工事支出金』勘定に集計されています。『未成工事支出金』勘定は工業簿記における『仕掛品』勘定に該当し、資産グループの勘定科目ですので、これを『完成工事原価』勘定に振替えて当期の費用として処理します。『完成工事原価』勘定は一般商品売買における『売上原価』勘定に該当します。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価
(売上原価)
未成工事支出金
(仕掛品)
(具体例-工事進行基準)

建設業を営む当社は、×1年において、ビルの建設工事の請負契約を1,000,000円で受注し、請負代金の一部である100,000円を手付金として現金で受け取った(未成工事受入金として記帳済み)。工事は×1年より着工し、完成は×3年の期末となる予定である。また当該工事の見積総工事原価は600,000円であり、各期の原価の発生額の内訳は以下の通りである。当該工事を工事進行基準で処理した場合の各期末の仕訳を示しなさい

(各期の工事原価の発生額の内訳)
×1年 ×2年 ×3年
材料費 60,000円 100,000円 40,000円
労務費 80,000円 140,000円 80,000円
経費 10,000円 60,000円 30,000円

各期の工事原価の発生額は当初の見積総工事原価600,000円と一致する。

×1年期末の処理

まず、×1年に発生した原価を『未成工事支出金』勘定へと振替ます。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 60,000
労務費 80,000
経費 10,000

次に、当期の工事収益の算定を行います。収益額は請負金額1,000,000円に工事原価の発生状況より算定した進捗度を乗じて算定します。

(計算過程)
工事進捗度:当期の工事原価発生額150,000円/見積総工事原価600,000円=0.25
当期の完成工事高:請負金額総額1,000,000×工事進捗度0.25=250,000円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 150,000 完成工事高 250,000
未成工事受入金 100,000

顧客より未成工事受入金(前受金)として既に100,000円を受け取っていますので、工事収益250,000円に対し、まずこの100,000円を充当し、残額を完成工事未収入金(売掛金)として処理することになります。

最後に、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 150,000 未成工事支出金 150,000

上記の一連の仕訳により、×1年損益計算書に完成工事高(売上高)250,000円および完成工事原価(売上原価)150,000円が計上されることになります。

×2年期末の処理

×2年についても×1年と同様に処理します。まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 300,000 材料費 100,000
労務費 140,000
経費 60,000

次に工事収益の計上を行います。なお2年目以降は、前期までに計上した完成工事高を控除する処理を忘れないようにしてください。

(計算過程)
工事進捗度:当期までの工事原価発生額(×1年度150,000円+×2年度300,000円)/見積総工事原価600,000円=0.75
当期の完成工事高:請負金額総額1,000,000×工事進捗度0.75 -前期までの収益計上額合計250,000円=500,000円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 500,000 完成工事高 500,000

最後に、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 300,000 未成工事支出金 300,000

上記の一連の仕訳により、×2年損益計算書に完成工事高(売上高)500,000円および完成工事原価(売上原価)300,000円が計上されることになります。

×3年期末の処理

×3年についてもこれまでと同様に処理します。まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 40,000
労務費 80,000
経費 30,000

次に工事収益の計上を行います。最終年については、実際の工事収益総額(請負金額)からこれまでに計上した工事収益の合計額を控除し、最終年に計上すべき完成工事高を算定します。
(計算過程)
最終年の完成工事高:工事収益総額1,000,000円-(×1年の収益250,000円+×2年の収益500,000円)=250,000円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 250,000 完成工事高 250,000

最後に、最終年の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 150,000 未成工事支出金 150,000

上記の一連の仕訳により、×3年損益計算書に完成工事高(売上高)250,000円および完成工事原価(売上原価)150,000円が計上されることになります。

(関連項目)
建設業会計の勘定科目・費用の一覧
見積工事原価総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理
工事収益総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理

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