工事完成基準の仕訳・会計処理

建設業における請負工事など、工事契約に関する収益・原価の認識基準(いつ売上を計上するのかの基準)には工事進行基準と工事完成基準とがあります。このうち工事完成基準とは、工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。(工事契約に関する会計基準第6項(4)参照)。

なお、工事収益総額・ 工事原価総額・決算日における工事進捗度などを信頼性をもって見積もることができる限り、工事収益の認識基準としては工事進行基準を採用することが必要となります。工事完成基準はこれらの要件を満たさない場合において採用する工事収益の認識基準となります(適用関係に関する詳細は工事進行基準と工事完成基準の概要と適用関係をご参照ください)。

工事進行基準の手順1-未成工事支出金の集計

まず、工事を進めるに当たって発生した原価(材料費・労務費・経費など)を『材料費』勘定などから『未成工事支出金』勘定へと振り替えます。『未成工事支出金』勘定は製造中の工事原価を集計する勘定科目であり、工業簿記における『仕掛品』勘定に該当します。
なお、この振替は決算時にまとめて行います(一般的には商的工業簿記を前提としますので、原価の振替は決算時にまとめておこないます)。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 材料費
労務費
経費

工事完成基準では、工事収益及び工事原価の計上は工事が完成し、引き渡しが完了した時に行います。したがって決算時において未だ完成していない工事について発生した原価は、貸借対照表上において『未成工事支出金』(流動資産)として計上され、資産として翌期へ繰り越されることになります。

工事完成基準の手順2-完成・引き渡し

工事完成基準では、工事が完成し、引き渡しが完了した時点において工事収益及び工事原価を計上することになります。工事が完成し・引き渡しが完了した時は、まず完成した期に発生した原価を上記1と同様に『未成工事支出金』勘定へ振り替え、工事原価を『未成工事支出金』勘定へと集計します。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 材料費
労務費
経費

次に、工事収益(売上高)の計上を行います。工事完成基準では完成・引き渡し時において請負金額の全額を『完成工事高』勘定と『完成工事未収入金』勘定を使って処理します。『完成工事高』勘定と『完成工事未収入金』勘定は一般商品売買における『売上』勘定と『売掛金』勘定にそれぞれ該当します。

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金
(売掛金)
完成工事高
(売上)
未成工事受入金
(前受金)

※ 『未成工事受入金』(一般商品売買における前受金勘定に該当)を事前に受け取っている場合は工事収益にこれを充当し、残額を『完成工事未収入金』として処理します。

次に原価の計上を行います。当期に発生した原価は上記1において『未成工事支出金』勘定に集計されていますので、『未成工事支出金』勘定には工事開始時から完成・引き渡し時までに発生したすべての原価が集計されていることになります。したがってこれを『完成工事原価』勘定に振替えて当期の費用として処理します。『完成工事原価』勘定は一般商品売買における『売上原価』勘定に該当します。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価
(売上原価)
未成工事支出金
(仕掛品)

上記の処理により、完成・引き渡し期の損益計算書において、当該工事の工事収益及び工事原価の全額を計上することになります。

(具体例-工事完成基準)

建設業を営む当社は、×1年において、ビルの建設工事の請負契約を1,000,000円で受注し、請負代金の一部である100,000円を手付金として現金で受け取った(未成工事受入金として記帳済み)。工事は×1年より着工し、完成は×3年の期末となる予定である。また当該工事の見積総工事原価は600,000円であり、各期の原価の発生額の内訳は以下の通りである。当該工事を工事完成基準で処理した場合の各期末の仕訳を示しなさい

(各期の工事原価の発生額の内訳)
×1年 ×2年 ×3年
材料費 60,000円 100,000円 40,000円
労務費 80,000円 140,000円 80,000円
経費 10,000円 60,000円 30,000円

各期の工事原価の発生額は当初の見積総工事原価600,000円と一致する。

×1年期末の処理

×1年末時点において、工事は未だに完成していません。したがって×1年に発生した原価を『未成工事支出金』勘定(流動資産)へと振り替え、発生した原価を資産として翌期へ繰り越します。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 60,000
労務費 80,000
経費 10,000

×1年の貸借対照表には、流動資産の区分において『未成工事支出金』として150,000円が計上されることになります。

×2年期末の処理

×2年末においても、工事は未だ完成していないため、×2年に発生した原価について×1年と同様に処理します。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 300,000 材料費 100,000
労務費 140,000
経費 60,000

×2年の貸借対照表には、流動資産の区分において『未成工事支出金』として450,000円(×1年発生分150,000円を含む)が計上されることになります。

×3年期末の処理

×3年末において当該工事が完成し、引き渡しが行われますので、×3年において工事収益及び工事原価の計上を行うことになります。まずは×3年に発生した原価について未成工事支出金へ集計することから行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 40,000
労務費 80,000
経費 30,000

次に工事収益の計上を行います。工事完成基準では完成・引き渡し時において工事収益の全額を計上することになりますので、×3年において工事の請負金額の全額について収益計上を行います。

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 900,000 完成工事高 1,000,000
未成工事受入金 100,000

顧客より未成工事受入金(前受金)として既に100,000円を受け取っていますので、工事収益1,000,000円に対し、まずこの100,000円を充当し、残額を完成工事未収入金(売掛金)として処理することになります。

最後に、これまでの発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。完成時までに発生した原価は『未成工事支出金』勘定に集計されているため、これを『完成工事原価』という費用(売上原価)を表す勘定へ振り替えます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 600,000 未成工事支出金 600,000

上記の一連の仕訳により、×3年損益計算書に完成工事高(売上高)1,000,000円および完成工事原価(売上原価)600,000円が計上されることになります。

(関連項目)
建設業会計の勘定科目・費用の一覧

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