見積工事原価総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理

工事契約に関する収益認識・会計処理として工事進行基準を採用している場合において、工事の途中で見積工事原価総額が変更された時は、変更後の工事進捗度を変更後の見積工事原価総額に基づいて算定することになります。

(見積工事原価総額変更後の工事進捗度の算定式)
当期末の工事進捗度=当期末までに発生した実際の工事原価/変更後の見積工事原価総額
(当期の収益計上額)
当期の収益=工事収益総額×当期末までの工事進捗度-前期末までに計上した収益

なお見積工事原価総額が見積時点において合理的なものである限り、変更前に計上した収益や原価については、見積工事原価総額の変更の影響をうけません(工事契約に関する会計基準第16項、工事契約に関する会計基準の適用指針第5・20項参照)。

(具体例-工事進行基準・見積工事原価総額の変更)

建設業を営む当社は、×1年において、ビルの建設工事の請負契約を1,000,000円で受注し、請負代金の一部である100,000円を手付金として現金で受け取った(未成工事受入金として記帳済み)。工事は×1年より着工し、完成は×3年の期末となる予定である。また当該工事の当初の見積工事原価総額は600,000円であり、各期の見積工事原価総額の内訳は以下の通りである。当該工事を工事進行基準で処理した場合の各期末の仕訳を示しなさい

(当初の見積工事原価総額の内訳)
×1年 ×2年 ×3年
材料費 60,000円 100,000円 40,000円
労務費 80,000円 140,000円 80,000円
経費 10,000円 60,000円 30,000円

なお×2年において原料価格が高騰したことから、×2年の材料費は130,000円、×2年度以降の見積工事原価総額は630,000円となった(これ以外の原価の発生額は当初の見積り額と一致する)。

×1年期末の処理

×1年においては見積工事原価総額の変更はありません。当初の見積りをもとに期末の工事進捗度を見積り、工事収益の算定を行います。
まず、×1年に発生した原価を『未成工事支出金』勘定へと振替ます。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 60,000
労務費 80,000
経費 10,000

次に、当期の工事収益の算定を行います。収益額は請負金額1,000,000円に工事原価の発生状況より算定した進捗度を乗じて算定します。

(計算過程)
工事進捗度:当期の工事原価発生額150,000円/見積工事原価総額600,000円=0.25
当期の完成工事高:請負金額総額1,000,000×工事進捗度0.25=250,000円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 150,000 完成工事高 250,000
未成工事受入金 100,000

顧客より未成工事受入金(前受金)として既に100,000円を受け取っていますので、工事収益250,000円に対し、まずこの100,000円を充当し、残額を完成工事未収入金(売掛金)として処理することになります。

最後に、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 150,000 未成工事支出金 150,000

上記の一連の仕訳により、×1年損益計算書に完成工事高(売上高)250,000円および完成工事原価(売上原価)150,000円が計上されることになります。

×2年期末の処理

×2年において、原料価格の高騰により当初の見積りより材料費が30,000円増加しています。これに従い見積工事原価総額も当初の600,000円から630,000円に増加していますので、工事進捗度の算定は×2年度より変更後の見積工事原価総額をもとに行います(×1年度に計上した収益・原価の遡及修正は行いません)。

まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 300,000 材料費 130,000
労務費 140,000
経費 60,000

次に工事収益の計上を行います。工事進捗度の算定は変更後の見積工事総原価をもとに行います。なお2年目以降は、前期までに計上した完成工事高を控除する処理を忘れないようにしてください。

(計算過程)
工事進捗度:当期までの工事原価発生額(×1年度150,000円+×2年度330,000円)/見積総工事原価630,000円=0.761905
当期の完成工事高:請負金額総額1,000,000×工事進捗度0.761905 -前期までの収益計上額合計250,000円=511,905円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 511,905 完成工事高 511,905

最後に、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 330,000 未成工事支出金 330,000

上記の一連の仕訳により、×2年損益計算書に完成工事高(売上高)511,905円および完成工事原価(売上原価)330,000円が計上されることになります。

×3年期末の処理

×3年(最終年)については収益の計上は差額で行います。

まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 150,000 材料費 40,000
労務費 80,000
経費 30,000

次に工事収益の計上を行います。最終年については、実際の工事収益総額(請負金額)からこれまでに計上した工事収益の合計額を控除し、最終年に計上すべき完成工事高を算定します。
(計算過程)
最終年の完成工事高:工事収益総額1,000,000円-(×1年の収益250,000円+×2年の収益511,905円)=238,095円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 238,095 完成工事高 238,095

最後に、最終年の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 150,000 未成工事支出金 150,000

上記の一連の仕訳により、×3年損益計算書に完成工事高(売上高)238,095円および完成工事原価(売上原価)150,000円が計上されることになります。

(関連項目)
建設業会計の勘定科目・費用の一覧
工事収益総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理
工事損失引当金に関する仕訳・会計処理

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