工事損失引当金に関する仕訳・会計処理

工事の請負契約を締結後、見積もった工事原価総額が原料価格や人件費の高騰あるいは不具合の発生などに伴って増加することがあります。
工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(工事損失)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上することが必要となります(工事契約に関する会計基準第19項参照)。

工事損失引当金計上額=見積工事損失-当期までに計上された利益-当期までに計上された損失※

※工事損失引当金計上額は今後発生されると見積もられる損失金額と一致します。

工事損失引当金の計上については、収益認識基準が工事進行基準であるか工事完成基準であるかにかかわらず、また、工事の進捗の程度にかかわらず、損失が発生すると見積もられた工事契約に対し適用することが求められます(工事契約に関する会計基準第20項参照)。

工事損失引当金は工事が完成し引き渡しが完了した時点において取崩を行います。

(具体例-工事損失引当金の計上)

建設業を営む当社は、×1年において、ビルの建設工事の請負契約を300,000円で受注し、請負代金の一部である30,000円を手付金として現金で受け取った(未成工事受入金として記帳済み)。工事は×1年より着工し、完成は×3年の期末となる予定である。また当該工事の当初の見積工事原価総額は280,000円であり、各期の見積工事原価総額の内訳は以下の通りである。当該工事を工事進行基準で処理した場合の各期末の仕訳を示しなさい

(当初の見積工事原価総額の内訳)
×1年 ×2年 ×3年
材料費 30,000円 50,000円 10,000円
労務費 30,000円 70,000円 50,000円
経費 10,000円 20,000円 10,000円

なお×2年において原料価格が高騰したことから、×2年の材料費は80,000円、×2年度以降の見積工事原価総額は310,000円となったが、工事契約金額の変更は行われなかった(これ以外の原価の発生額は当初の見積り額と一致する)。

×1年期末の処理

×1年においては見積工事原価総額の変更はありません。当初の見積りをもとに期末の工事進捗度を見積り、工事収益の算定を行います。
まず、×1年に発生した原価を『未成工事支出金』勘定へと振替ます。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 70,000 材料費 30,000
労務費 30,000
経費 10,000

次に、当期の工事収益の算定を行います。収益額は請負金額300,000円に工事原価の発生状況より算定した進捗度を乗じて算定します。

(計算過程)
工事進捗度:当期の工事原価発生額70,000円/見積工事原価総額280,000円=0.25
当期の完成工事高:請負金額総額300,000×工事進捗度0.25=70,000円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 40,000 完成工事高 70,000
未成工事受入金 30,000

顧客より未成工事受入金(前受金)として既に30,000円を受け取っていますので、工事収益75,000円に対し、まずこの30,000円を充当し、残額を完成工事未収入金(売掛金)として処理することになります。

最後に、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 70,000 未成工事支出金 70,000

上記の一連の仕訳により、×1年損益計算書に完成工事高(売上高)75,000円および完成工事原価(売上原価)70,000円が計上されることになります。

×2年期末の処理

×2年において、原料価格の高騰により当初の見積りより材料費が30,000円増加しています。これに従い見積工事原価総額も当初の280,000円から310,000円に増加していますので、工事進捗度の算定は×2年度より変更後の見積工事原価総額をもとに行います(×1年度に計上した収益・原価の遡及修正は行いません)。

まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 170,000 材料費 80,000
労務費 70,000
経費 20,000

次に工事収益の計上を行います。工事進捗度の算定は変更後の見積工事総原価をもとに行います。なお2年目以降は、前期までに計上した完成工事高を控除する処理を忘れないようにしてください。

(計算過程)
工事進捗度:当期までの工事原価発生額(×1年度70,000円+×2年度170,000円)/見積総工事原価310,000円=0.77419
当期の完成工事高:請負金額総額300,000×工事進捗度0.77419 -前期までの収益計上額合計75,000円=157,257円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 157,257 完成工事高 157,257

さらに、当期の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 170,000 未成工事支出金 170,000

最後に、工事損失引当金の計上をおこないます。原料価格の高騰により見積工事原価総額が増加していますが、工事収益には変更はありません。
したがって当該工事については工事損失が発生することになります。工事損失引当金は工事損失が発生すると見込まれた時点において、今後発生されると見積もられる損失金額を引き当て経理することになりますので、以下の金額を工事損失引当金として計上することになります。

(計算過程)
見積工事損失:工事収益総額300,000円-見積工事原価総額310,000=△10,000円
前期(×1年)に計上した利益:完成工事高75,000円-完成工事原価70,000円=5,000円
当期(×2年)に計上した損失:完成工事高157,257円-完成工事原価170,000円=△12,743円
工事損失引当金計上額:見積工事損失△10,000円-前期利益5,000円 -当期損失△12,743円=△2,257円

(仕訳-工事損失引当金の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 2,257 工事損失引当金 2,257

工事損失引当金繰入額は『完成工事原価』に含めて発生時の費用として処理します。
上記の一連の仕訳により、×2年損益計算書に完成工事高(売上高)157,257円および完成工事原価(売上原価)172,257円が計上され、貸借対照表に工事損失引当金2,257円が計上されることになります。

×3年期末の処理

×3年(最終年)については収益の計上は差額で行います。

まずは未成工事支出金の集計から行います。

(仕訳-未成工事支出金の集計)
借方 金額 貸方 金額
未成工事支出金 70,000 材料費 10,000
労務費 50,000
経費 10,000

次に工事収益の計上を行います。最終年については、実際の工事収益総額(請負金額)からこれまでに計上した工事収益の合計額を控除し、最終年に計上すべき完成工事高を算定します。

(計算過程)
最終年の完成工事高:工事収益総額300,000円-(×1年の収益75,000円+×2年の収益157,257円)=67,743円

(仕訳-完成工事高の計上)
借方 金額 貸方 金額
完成工事未収入金 67,743 完成工事高 67,743

さらに、最終年の発生原価を完成工事原価(売上原価)へと振替ます。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
完成工事原価 70,000 未成工事支出金 70,000

最後に、最終年においては工事損失引当金の取崩処理を行います。

(仕訳-工事原価の振替)
借方 金額 貸方 金額
工事損失引当金 2,257 完成工事高 2,257

工事損失引当金取崩額は『完成工事原価』の貸方として処理します。
上記の一連の仕訳により、×3年損益計算書に完成工事高(売上高)67,743円および完成工事原価(売上原価)67,743円が計上されることになります。

(関連項目)
建設業会計の勘定科目・費用の一覧
見積工事原価総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理
工事収益総額を変更した時(工事進行基準)の仕訳・会計処理

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