割引率の算定(減損会計における使用価値算定)について

減損損失の測定において、算定する使用価値は資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて算定することになります(将来キャッシュ・フローの見積りについては最頻値法と期待値法(将来キャッシュ・フローの見積り)についてをご参照ください)。

使用価値の算定に際して用いられる割引率については、減損損失の測定時点の割引率を用い、これは貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とし、また資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクが、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない場合には、割引率に反映させることが必要となります(固定資産の減損に係る会計基準 二5、同注解・注6参照)。
貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映した割引率は、以下のもの又はこれらを総合的に勘案し算定することになります(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第45項参照)。

(両方のリスクを反映した割引率)
(1) 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率。

企業は、内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部の情報に基づき、当該資産又は資産グループに係る収益率を算定することになります。

(2) 当該企業に要求される資本コスト。

資本コストは、借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることになります。

(3) 当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率。
(4) 当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率。

なお、資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させた場合には、使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率(国債利回り)を用いることになります(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第46項参照)。

(具体例-割引率の算定)

当社が保有する機械Aについて、減損の兆候が見られたため、減損損失の認識の判定を行ったところ、以下の通り割引前将来キャッシュ・フロー(450,000円)が帳簿価額(600,000円)を下回っていたため減損損失の計上を行うこととなった。機械Aについて、以下の資料をもとに減損損失の測定を行い、必要な仕訳を示しなさい。

(機械A)
取得原価:1,000,000円
期末時点における減価償却累計額(当期の償却額を含む):400,000円
経済的残存使用年数(残存耐用年数):3年
今後見込まれ将来キャッシュ・フロー:毎年150,000円(使用年数経過後の売却見込み額は0円)
機械Aに類似の資産について、保有の意思決定の際に用いているハードル・レート:7.5%(なお当該ハードルレートは、設定時に目標数値として上積部分3%が織り込まれている)
当社の借入資本コスト:3%
当社の自己資本コスト:5%
他人資本と自己資本の割合:5:5

(条件)
・上記の将来キャッシュ・フローには将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクは反映されていないため、当該リスクは割引率に反映させるものとする。
・両リスクを反映した割引率の算定においては、
(1)当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
(2)当該企業に要求される資本コスト
の2つの考え方をもとにそれぞれ2つの割引率を算定し、それぞれの場合における使用価値を算定すること。

1.当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率を割引率として使用する場合

当社では類似資産保有の際の意思決定としてハードルレートを設定しています。当該ハードルレートは企業や資産の固有リスクを反映して設定されていると考えられるため、これを基礎とし、必要な修正を加えたものを割引率として設定します。当設例においてはハードルレートには目標値として3%の上積みが加算されています。したがってこの上積割合は排除し、これを当該資産の固有のリスクを反映した割引率として設定し、使用価値を求めます。

(計算過程)
使用する割引率:ハードルレート7.5%-上積割合3%=4.5%
使用価値の算定:150,000円/(1+0.045)+150,000円/(1+0.045)^2年+150,000円/(1+0.045)^3年=412,344円
帳簿価額:取得原価1,000,000円-累計額400,000円=600,000円
減損損失:帳簿価額600,000円-使用価値412,344円=187,656円

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
減損損失 187,656 機械 187,656
2.当該企業に要求される資本コストを割引率として使用する場合

資本コストをもとに割引率を算定する場合、借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることになります。
上記の条件をもとに加重平均した資本コストを割引率として設定した場合の減損損失の金額の算定は以下のようになります。

(計算過程)
資本コスト(加重平均):借入コスト3%×0.5+自己資本コスト5%×0.5=4%
使用価値の算定:150,000円/(1+0.04)+150,000円/(1+0.04)^2年+150,000円/(1+0.04)^3年=416,263円
帳簿価額:取得原価1,000,000円-累計額400,000円=600,000円
減損損失:帳簿価額600,000円-使用価値416,263円=183,737円

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
減損損失 183,737 機械 183,737

上記の具体例は、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針 設例6をもとに数値・条件などを大幅に単純化し、説明を加筆して作成しています。適用指針・設例6も合わせてご参照ください。

(関連項目)
減損会計の手順について

スポンサードリンク