過去勤務費用の仕訳・会計処理

退職給付会計による差異等には数理計算上の差異のほか過去勤務費用(過去勤務債務)というものがあります。
過去勤務費用とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分をいいます。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを未認識過去勤務費用といいます(退職給付に関する会計基準第12項等参照)。

過去勤務費用は予想される退職時から現在までの平均的な期間(平均残存勤務期間)以内の一定の年数で費用処理します(遅延認識)。過去勤務費用の費用処理に関する取扱いは以下の通りとなります(退職給付に関する会計基準第25項、同注解 注9参照)。

(過去勤務費用の処理)
(原則)

過去勤務費用は、原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間(平均残存勤務期間)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する(定額法)

(容認)

過去勤務費用については、未認識過去勤務費用の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、過去勤務費用の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない(定率法)

過去勤務費用は平均残存勤務期間内の一定の年数で按分した額を費用処理しますので、発生年度に全額費用処理することもできます。
過去勤務費用については上記の通り、定額法のほか定率法の適用も認められてはいますが、頻繁に発生するものでない限り、発生年度別に一定の年数にわたって定額法による費用処理を行うことが望ましいものとされています(退職給付に関する会計基準の適用指針第42項参照)。
また、退職従業員に係る過去勤務費用は、他の過去勤務費用と区分して発生時に全額を費用処理することができます(退職給付に関する会計基準注解 注10参照)。

過去勤務費用や数理計算上の差異がある場合の貸借対照表における退職給付引当金(または前払年金資産)の計上に当たっては退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を退職給付引当金として負債に計上します(退職給付に関する会計基準第39項(1)(2)(3)等参照。なお貸借対照表における過去勤務費用や数理計算上の差異の扱いは個別と連結とでは異なります。このページでは個別財務諸表を前提に解説しています)。

(退職給付引当金の算定)
退職給付引当金=退職給付債務±未過去勤務費用等※-年金資産

※退職給付引当金の算定は下記具体例もあわせてご参照ください。

(具体例-数理計算上の差異)

A社員の退職一時金の見込額について、これまで1,000,000円として退職給付引当金を算定してきたが、当期首に退職給付水準の改訂がおこなわれ、A社員の退職一時金の見込額は1,200,000円に増加した。当期におけるA社員の過去勤務費用に関する仕訳を示しなさい。なおA社員の全勤務期間を5年(当期首までに2年経過)、過去勤務費用は3年間の定額法で償却、退職時一時金の見込額は毎期同額発生するものとし、割引率を2%、年金資産はないものとする。

(計算過程)
旧水準による退職給付見込額(当期首までの発生額):1,000,000円×2年/5年=400,000円
旧水準による退職給付債務:400,000円/(1+0.02)^3年=376,929円

新水準による退職給付見込額(当期首までの発生額):1,200,000円×2年/5年=480,000円
新水準による退職給付債務:480,000円/(1+0.02)^3年=452,315円

∴過去勤務費用:452,315円-376,929円=75,386円
当期償却額:75,386円/3年=25,129円
未認識過去勤務費用:75,386円-25,129円=50,257円

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
退職給付費用 25,129 退職給付引当金 25,129

退職給付水準の改定により、退職給付債務が増加しています。この増加額である過去勤務費用を遅延認識しますので、償却額は費用として計上します。
なお、当期末における退職給付引当金残高は以下の通りとなります。

(計算過程)
新水準による退職給付見込額(当期末での発生額):1,200,000円×3年/5年=720,000円
新水準による退職給付債務(期末):720,000円/(1+0.02)^2年=692,042円

退職給付引当金残高:692,042円(新水準による退職給付債務)-50,257円(未認識過去費用)=641,515円

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