数理計算上の差異の計算と仕訳

1.数理計算上の差異・未認識数理計算上の差異とは

退職給付引当金の算定に当たっては各種の見積計算が使用されています。
たとえば、期待運用収益の算定に当たっては、期首の年金資産額に長期期待運用収益率という見積率を乗じて算定しますが、当然に見積数値と実際の数値とが異なることがあり得ます。この見積数値と実績値との差異を数理計算上の差異といいます。

すなわち数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいいます。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを未認識数理計算上の差異といいます(退職給付に関する会計基準第11項等参照)。

2.数理計算上の差異の会計処理(個別財務諸表上の取り扱い)

数理計算上の差異はその発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間以内の一定の年数で費用処理します(遅延認識)。数理計算上の差異の費用処理に関する取扱いは以下の通りとなります(退職給付に関する会計基準第24項、同注解 注7参照)。

(数理計算上の差異の処理)
(原則)

数理計算上の差異は、原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間(平均残存勤務期間)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する(定額法)

(容認)

数理計算上の差異については、未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、数理計算上の差異の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない(定率法)

数理計算上の差異は平均残存勤務期間内の一定の年数で按分した額を費用処理しますので、発生年度に全額費用処理することもできます。
また数理計算上の差異の償却開始年度は、発生年度からの償却を原則としますが、当期の発生額を翌期から費用処理する方法を用いることもできます(退職給付に関する会計基準注解 注7後段参照)。

なお、数理計算上の差異等がある場合の貸借対照表における退職給付引当金(または前払年金資産)の計上に当たっては退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を退職給付引当金として負債に計上します(退職給付に関する会計基準第39項(1)(2)(3)等参照。なお貸借対照表における数理計算上の差異の扱いは個別と連結とでは異なります。このページでは個別財務諸表を前提に解説しています)。

(退職給付引当金の算定)
退職給付引当金=退職給付債務±未認識数理計算上の差異等-年金資産

有利差異・不利差異の取り扱いについては下記具体例を参照ください。

(具体例-数理計算上の差異)

当社では期首の年金資産を20,000円、長期期待運用収益率を3%としていたが、当期の実際の運用収益率は2%であった。数理計算上の差異の償却に関する仕訳を示しなさい(数理計算上の差異は発生年度より5年で毎期均等額の償却を行うものとする)。

(計算過程)
期待運用収益:20,000円×3%=600円
実際運用収益:20,000円×2%=400円

∴数理計算上の差異:600円-400円=200円(※不利差異)
当期償却額:200円/5年=40円(※不利差異の償却のため費用の増加)
未認識数理計算上の差異:200円-40円(当期償却分)=160円(不利差異)

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
退職給付費用 40 退職給付引当金 40

※期待運用収益600円に対し、実際の運用収益は400円であり年金資産が200円見積りよりも少なかったことになります。資産が見積りより少ないので不利差異となり、その償却額は費用処理することが必要です。

なお、仮に期末の退職給付債務が100,000円、年金資産が20,400円、未認識数理計算上の差異が160円(不利差異)の場合、期末の退職給付引当金は以下のように算定します。

退職給付引当金:100,000円(退職給付債務)-20,400円(年金資産)-160円(数理計算上の差異(不利差異))

(関連項目)
過去勤務費用の仕訳・会計処理

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