セールアンドリースバック取引の仕訳・会計処理

企業(借手)が所有する機械装置や建物などの固定資産を貸手に売却し、貸手からその資産のリースを受ける取引をセール・アンド・リースバック取引といいます(リース取引に関する会計基準の適用指針第48項参照)。
セール・アンド・リースバック取引は固定資産を売却することにより資金調達を行うと同時に、当該資産を今まで通り使用することなどを目的として行うものですが、その実質は自己資産を担保とした資金融資の受入と考えられるため、その実質に応じた処理が必要となります。

セール・アンド・リースバック取引に関する会計処理のポイントは以下の通りです。

1.資産売却取引の処理

セール・アンド・リースバック取引におけるリースバック取引がファイナンス・リース取引に該当する場合、借手は、リースの対象となる物件の売却に伴う損益を売却時の一時的な損益として計上するのではなく、これを長期前払費用(売却損の場合)又は長期前受収益(売却益の場合)として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します(リース取引に関する会計基準の適用指針第49項参照)。

例えば、借手が帳簿価額10,000円の機械(取得原価12,000円、減価償却累計額2,000円)を9,000円で貸手に売却した場合は売却時の仕訳は以下の通りです。

(仕訳-資産売却時)
借方 金額 貸方 金額
減価償却累計額 2,000 機械 12,000
現金預金 9,000
長期前払費用 1,000

※ 売却益が発生する場合は貸方『長期前受収益』を計上します。

上記の長期前払費用(または長期前受収益)はリース資産の減価償却費の割合に応じて、『長期前払費用償却』または『長期前受収益償却』勘定を使って償却し、これを減価償却費に加減して損益に計上することになります。

例えば、上記の長期前払費用1,000円を減価償却費の割合に応じて10年で定額償却する場合の仕訳は以下のようになります。

(仕訳-償却時)
借方 金額 貸方 金額
長期前払費用償却 100 長期前払費用 100

上記の『長期前払費用償却』まやは『長期前受収益償却』勘定の金額は減価償却費に加減して損益に計上しますので、『減価償却費』勘定を使用する場合もあります。

2.リースバック取引の処理

セール・アンド・リースバック取引におけるリース取引がファイナンス・リース取引に該当するかどうかの判定については、現在価値基準または経済的耐用年数基準に基づいておこなわれます。
またリース資産・リース債務の計上額については、貸手の現金購入価額は借手の実際の売却価額と一致するため、以下の通りとなります(リース取引に関する会計基準の適用指針第49項参照)。

(リース資産・リース債務計上額)
リース取引の分類 リース資産・リース債務の計上額
所有権移転ファイナンス・リース取引 借手の実際の売却価額(※1)
所有権移転外ファイナンス・リース取引 借手の実際の売却価額とリース料総額の割引現在価値のうちいずれか低い額(※2)

※1 所有権移転ファイナンス・リース取引のリース資産計上額は通常は以下のように求めますが、セール・アンド・リースバック取引では貸手の購入価額は借手の実際の売却価額と一致しますので、リース資産・債務計上額は借手の実際の売却価額となります。
・借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかな場合は、貸手の購入価格等
・貸手の購入価額等が明らかでない場合は、リース料総額の割引現在価値と借手の見積現金購入価額とのいずれか低い額

※2 所有権移転外ファイナンス・リース取引のリース資産計上額は通常は以下のように求めますが、セール・アンド・リースバック取引では貸手の購入価額は借手の実際の売却価額と一致しますので、リース資産・債務計上額は借手の実際の売却価額とリース料総額の割引現在価値のうちいずれか低い額となります。
・借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかな場合は、リース料総額の割引現在価値と貸手の購入価額等とのいずれか低い額
・貸手の購入価額等が明らかでない場合は、リース料総額の割引現在価値と借手の見積現金購入価額とのいずれか低い額

(具体例-セールアンドリースバック取引)

当社は×1年4月1日(期首)に以下の条件でセール・アンド・リースバック取引を行った。以下の時点における仕訳をそれぞれ示しなさい。

1.×1年4月1日(資産売却・リース取引開始時)
2.×2年3月31日(リース料支払時)
3.×2年3月31日(リース料決算時)

当社(借手)は以下の条件で所有する機械を貸手に売却し、同時にその全部のリースバックを行った。
(売却した機械についての条件)
1.借手の機械の取得原価は50,000円
2.機械の耐用年数は5年であり、売却時点においてちょうど1年が経過している。
3.機械の減価償却方法については定額法であり、残存価額を10%として算定している
4.機械の貸手への売却価額は45,000円であり、代金は現金で受け取った

(リースバック取引についての条件)
1.当該リースバック取引は所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する
2.リース期間4年
3.リース料の支払は毎年3月31日に1年分のリース料12,500円を後払い
4.リースバック後の経済的耐用年数は4年
5.当社(借手)の減価償却方法は定額法であり、残存価額は当初の残存価額を使用する
6.貸手の計算利子率は年4.3518%である
7.リース取引開始日はX1年4月1日、当社の決算日は3月31日である

1.×1年4月1日(機械の売却・リース取引開始)の仕訳

セール・アンド・リースバック取引におけるリース取引がファイナンス・リース取引に該当する場合、借手はリース物件の売却に伴い発生する売却損益を長期前払費用又は長期前受収益等として繰延処理し、その後のリース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上することになります。

また本設問におけるリースバック取引は所有権移転ファイナンス・リース取引に該当しますので、リース資産及びリース債務の計上額は、当社(借手)が貸手に資産を売却した際の実際の売却価額(=貸手にとってのリース物件購入価額)を使用して計上することになります。

(計算過程)
・機械売却時の帳簿価額:機械の取得原価50,000円-(取得原価50,000円-50,000円×10%)/5年=41,000円
・機械の売却損益:実際の売却価額45,000円-売却時の帳簿価額41,000円=4,000円(売却益)

(仕訳-機械の売却・リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
減価償却累計額 9,000 機械 50,000
現金 45,000 長期前受収益 4,000
リース資産 45,000 リース債務 45,000
2.×2年3月31日(リース料支払時)

所有権移転ファイナンス・リース取引において、借手がリース料を支払った時はリース取引開始時において計上したリース債務を減額して処理します。なお支払ったリース料についてはリース債務の元本相当額の返済部分のほかに利息分が含まれることになりますので、支払ったリース料のうち利息部分に該当する金額については『支払利息』勘定を使って費用処理します。
支払ったリース料のうち元本返済部分と支払利息部分との区分については、まずリース債務の未返済元本残高に一定の利率を乗じて支払利息を算定し、これをリース料支払額から控除してリース債務元本の返済額を算定します。なお当該利率について、セール・アンド・リースバック取引においては貸手の計算利子率を使用します(借手はこれを知りうるため)。

(計算過程)
支払利息:未返済元本残高45,000円×利率4.3518%×12月/12月=1,958円
元本返済額:リース料支払額12,500円-支払利息1,958円=10,542円

(仕訳・リース料支払時)
借方 金額 貸方 金額
リース債務 11,979 現金預金 12,500
支払利息 1,958
3.×2年3月31日(決算整理仕訳)

ファイナンス・リース取引のリース物件については通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。リース物件についてはこれを資産計上しているため、決算時において減価償却費の計上が必要となります。
所有権移転ファイナンス・リース取引に係るリース資産の減価償却費は、自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により算定します。すなわち、リース物件以外の自己所有の固定資産と同様の方法により、経済的使用可能予想期間(経済的耐用年数)をもとに償却計算をおこないます。
なお本設問では、減価償却計算の残存価額は当初の取得原価(本設問では50,000円)をもとに算定する点のご注意ください。

またリース物件売却時において算定された売却損益は長期前払費用または長期前受収益として繰延処理され、減価償却の割合に応じて損益計上(減価償却費に加減)することになりますので、決算時において長期前払費用・長期前受収益の償却計算を行うことになります。

(計算過程)
減価償却費:(リース資産45,000円-残存価額50,000円×10%)÷リース後の経済的耐用年数4年×12月/12月=10,000円
長期前受収益償却:長期前受収益4,000円÷リース後の経済的耐用年数4年×12月/12月=1,000

(仕訳-減価償却費)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 10,000 減価償却累計額 10,000
長期前受収益 1,000 長期前受収益償却 1,000

上記の長期前受収益償却は減価償却費に加減して損益に計上するため、以下のように減価償却費勘定を使用しても構いません。

(仕訳-減価償却費・別解)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 10,000 減価償却累計額 10,000
長期前受収益 1,000 減価償却費 1,000

(関連項目)
所有権移転ファイナンスリース取引の借手側の仕訳・会計処理
所有権移転外ファイナンスリース取引の借手側の仕訳・会計処理
転リース取引の仕訳・会計処理

スポンサードリンク