市場販売目的のソフトウェアに関する会計処理

1.ソフトウェアの制作費に係る会計処理

市場販売目的のソフトウェアである製品マスターの制作費は、研究開発費に該当する部分を除き、無形固定資産(ソフトウェア・ソフトウェア仮勘定など)として計上することが必要です。ただし、製品マスタ―の機能維持に要した費用は資産として計上する事はできません(研究開発費等に係る会計基準 第四項2・4参照)。
市場販売目的のソフトウェアについての会計処理をまとめると以下の表のようになります。

(市場販売目的のソフトウェア)
最初に製品化された製品マスターの完成までの費用及び製品マスターまたは購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用。 研究開発費として発生時費用処理
製品マスターまたは購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動のための費用 無形固定資産に資産計上
バグ取り、ウィルス防止などの修繕・維持・保全(ソフトウェアの機能維持)に要した費用 発生時費用処理

製品マスターとは、販売対象となる複写可能な完成品をいい、それ自体販売の対象となるものではありませんが、複写して製品を作成するものであり、また法的な権利(著作権)等を有する場合もあります。したがって、このような性質を持つ製品マスターの制作に要した費用は無形固定資産として資産計上が必要となります。(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第35項参照)。
ただし、最初に製品化された製品マスターの完成までの費用は、新しい知識を発見し製品化する活動に関する費用であり、研究開発費として発生時に費用処理されることに注意が必要となります。
研究開発の終了時点とは、製品番号を付すことなどにより、販売の意思が明らかにされた製品マスター(最初に製品化された製品マスター)の完成時点をいいますが、最初に製品化された製品マスタ―の完成時点とは、実務指針第8項においては判断基準として以下の2点を挙げています。

1.製品性を判断できる程度のプロトタイプ(機能評価版のソフトウェア)が完成していること。
2.プロトタイプを制作しない場合は、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消していること。

2.市場販売目的のソフトウェアの減価償却

無形固資産として計上したソフトウェアの取得原価は、当該ソフトウェアの性格に応じて、見込販売数量に基づく償却方法その他合理的な方法により償却することが求められます(研究開発費等に係る会計基準 第四項5参照)。
市場販売目的のソフトウェアの償却方法としては、見込販売数量のほかに見込販売収益による償却計算も認められますが、毎期の償却額は残存有効期間に基づく均等配分額を下回ることはできません(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第18項参照)。
以下、市場販売目的の償却費の計算式をまとめると下記のようになります。

(市場販売目的のソフトウェア)
a 期首の未償却残高×当期実際販売数量(収益)/当期首における見込販売数量(収益)
b 期首未償却残高÷残存有効期間

上記aとbのいずれか大きい方の金額がソフトウェアの減価償却費となります。最終年度は未償却残高全額を償却します。なお、有効残存期間は原則として3年とし、3年を超える年数とするときには合理的な根拠に基づくことが必要となります。

(具体例-市場販売目的のソフトウェア償却)

x1年度及びx2年度における下記条件のソフトウェア(市場販売目的)について期末の仕訳を示しなさい。

(条件)
1.無形固定資産として計上されたソフトウェアの制作費は300,000円である
2.当該ソフトウェアの見込み有効期間は3年である。
3.当該ソフトウェアの見込販売数量と見込販売収益は以下の通りである。

(見込販売数量及び見込販売収益)
見込販売数量 見込販売収益
x1年度 1,200個 240,000円
x2年度 800個 56,000円
x3年度 1,500個 225,000円

実際の販売数量及び販売収益は上記の見込通りであった。

x1年度において見込販売数量に基づく減価償却を行った場合

(計算過程)
a:300,000円×1,200個/(1,200個+800個+1,500個)=102,857円(見込販売数量に基づく償却額)
b:300,000円×1/3年=100,000円(残存有効期間による均等償却額)

したがってa>bのためx1年度償却額は102,857円

(仕訳・x1年見込販売数量に基づく償却)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 102,857 ソフトウェア 102,857

翌期は197,143円(=300,000円-102,857円)を未償却残高として償却費の計算を行います。

x2年度において見込販売数量に基づく減価償却を行った場合

(計算過程)
a:197,143円×800個/(800個+1,500個)=68,571円(見込販売数量に基づく償却額)
b:197,143円×1/2年=98,572円(残存有効期間による均等償却額)

したがってa<bのためx2年度償却額は98,572円

(仕訳・x2年見込販売数量に基づく償却)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 98,572 ソフトウェア 98,572

翌期は最終年であるため、残額の98,571円(=197,143円-98,572円)全額が償却費として計上されます。

x1年度において見込販売収益に基づく減価償却を行った場合

(計算過程)
a:300,000円×240,000円/(240,000円+56,000円+225,000円)=138,196円(見込販売収益に基づく償却額)
b:300,000円×1/3年=100,000円(残存有効期間による均等償却額)

したがってa>bのためx1年度償却額は138,196円

(仕訳・x1年見込販売収益に基づく償却)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 138,196 ソフトウェア 138,196

翌期は161,804円(=300,000円-138,196円)を未償却残高として償却費の計算を行います。

x2年度において見込販売収益に基づく減価償却を行った場合

(計算過程)
a:161,804円×56,000円/(56,000円+225,000円)=32,246円(見込販売収益に基づく償却額)
b:161,804円×1/2年=80,902円(残存有効期間による均等償却額)

したがってa<bのためx2年度償却額は80,902円

(仕訳・x1年見込販売収益に基づく償却)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 80,902 ソフトウェア 80,902

翌期は最終年であるため、残額の80,902円(=161,804円-80,902円)全額が償却費として計上されます。

3.未償却残高が見込販売収益を上回った場合

償却計算を行った結果、ソフトウェアの未償却残高が翌期以降の見込販売収益を上回ったときは当該超過額に関しては一時の費用として処理することが必要となります。これは見込販売数量で償却計算を行っている場合でも適用されます(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第20項参照)。

(具体例-未償却残高が見込販売収益を上回ったとき)

x2年度における下記条件のソフトウェア(市場販売目的)について期末の仕訳を示しなさい。

(条件)
1.無形固定資産として計上されたソフトウェアの制作費は300,000円である
2.当該ソフトウェアの見込み有効期間は3年である。
3.当該ソフトウェアの見込販売数量に基づき償却した時の未償却残高と見込販売数量、および見込販売収益及びは以下の通りである。

(見込販売数量及び見込販売収益)
期首未償却残高 見込販売数量 見込販売収益
x1年度 300,000円 1,200個 240,000円
x2年度 197,143円 1,500個 225,000円
x3年度 68,571円 800個 56,000円

見込販売数量に基づいてソフトウェアの償却計算を行った結果、x2年度の償却費は上記の表から128,572円(=197,143円-68,571円)、x2年度期末(x3年度期首と同額)のソフトウェアの未償却残高は68,571円となっております。しかし、x2年度末において翌期以降の見込販売収益は56,000円しかなく、ソフトウェアの未償却残高68,571円を上回っているためその差額である12,571円についてもx2年度末において一時の費用として計上する必要があります。

(計算過程)
x2年度償却額は、128,572円+12,571円=141,143円

(仕訳・x2年見込販売数量に基づく償却)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 141,143 ソフトウェア 141,143

4.見込販売数量・見込販売収益の変更

上記の通り、無形固定資産に計上したソフトウェアは見込販売数量または見込販売収益に基づき減価償却費の計算を行う必要がありますが、当該見込販売数量・見込販売収益は毎期見直しを行い、減少が見込まれる販売数量等に相当する取得原価は費用または損失として処理することが必要となります(研究開発費に係る会計基準注解 注5参照)。
販売数量等の変更については当初の見積もりが合理的であったか否かなどにより、以下の通り会計処理は異なります(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第19項参照)。

(見込販売数量等の変更)
新たな情報の入手により見込販売数量等を変更するものであり、当初見積もりも見積時点においては合理的なものであった場合(会計上の見積もりの変更) 見直し以降の見込販売数量等を修正し償却計算を行う(過去の計算には影響しません)
そもそも当初の見積もりが自体が合理的なものではなかった場合(過去の誤謬の訂正) 修正再表示(遡及修正します)
(具体例-見込販売数量等の変更)

x2年度末における下記条件のソフトウェア(市場販売目的)について期末の仕訳を示しなさい。

(条件)
1.無形固定資産として計上されたソフトウェアの制作費は300,000円である
2.当該ソフトウェアの見込み有効期間は3年である。
3.当該ソフトウェアの見込販売数量は以下の通りである。なお、x2年度終了時点において見込販売数量の見直しを行ったところx3年度の見込販売数量が当初見込みを下回ることが明らかとなった(当初見込みは、その時点においては合理的なものである)

(見込販売数量)
当初見込販売数量 実際販売数量 見直し後販売数量
x1年度 1,000個 1,000個 1,000個
x2年度 1,500個 1,500個 1,500個
x3年度 1,000個 800個

なお、x2年度期首の未償却残高は200,000円である。

(計算過程)
当初の見込販売数量は見積時点においては合理的なものであり、当該変更は新たな情報の入手によるもの(会計上の見積もりの変更)に当たります。この場合、過去にさかのぼっての修正は行いませんので、期末時点の見積もりの変更は、期中の償却計算には影響しません。したがってx2年度の償却計算は見積変更前の数値を使って行います。
a:200,000円×1,500個/(1,500個+1,000個)=120,000円
b:200,000円×1/2年=100,000円

したがってa>bのためx2年度の償却費は120,000円

(仕訳・x2年度)
借方 金額 貸方 金額
ソフトウェア償却 120,000 ソフトウェア 120,000

なお、見込販売数量の変更がx2年度期首時点に行われた場合、x2年度の償却費の計算は見積変更後の数値に基づいて行うため、x2年度の減価償却費の計算は以下の通りになります。
a:200,000円×1,500個/(1,500個+800個)=130,435円
b:200,000円×1/2年=100,000円

したがってa>bのためx2年度の償却費は130,435円

当ページの上記の各具体例の数値に関しては、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針の設例の数値をベースに説明の都合上、適宜変更して使用しています。実務指針の設例も合わせてご参照ください。

(関連項目)
自社利用のソフトウェアに関する会計処理
ソフトウェア仮勘定の仕訳・会計処理

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