有価証券の減損(強制評価減)の会計処理

有価証券はその保有目的により、取得原価、時価または償却原価などにより評価されることになりますが、有価証券の時価や実質価額が著しく下落した場合、これらの評価基準にかかわらず、評価損の計上が強制されます。これを有価証券の減損といいます。有価証券の減損に関しては、当該有価証券の時価評価の把握可能性などから次の2つの場合があります(金融商品に関する会計基準 第20項第21項参照)。

(有価証券の減損)
内容 参照ページ
満期保有目的の債券子会社株式及び関連会社株式並びにその他有価証券のうち、時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品以外のものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理する。 当ページ下記参照
時価を把握することが極めて困難と認められる株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理する。 有価証券の減損(実価法)ページ参照

上記のうち、上段を『強制評価減』、下段を『実価法』と呼ぶこともあります。売買目的有価証券については、常に時価評価の対象とされ、評価差額は当期の損益として認識されるため上記の対象とはなっておりません。
なお、減損対象となった有価証券については、当該時価及び実質価額を翌期首の取得原価とすることになりますので、翌期首の振替処理は必要ありません切放法、なお金融商品に関する会計基準 第22項参照)。

有価証券の減損(強制評価減)の会計処理

上記の通り、売買目的有価証券以外の有価証券について、時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価評価し、評価差額は当期の損失(特別損失)として処理する事になります。
なお、『時価が著しく下落』したときとは、一概に数値化できるものではありませんが、おおむね取得原価の50%以上下落した時が該当するとされています(金融商品会計に関する実務指針 第91項参照)。この場合には、取得原価まで回復するという合理的な反証がない限り減損処理を行う必要があります(回復する見込みが不明な場合なども含みます)。

(具体例-有価証券の減損・強制評価減)

当社が保有するA社株式30,000円はその他有価証券に該当し、現在の帳簿価額は取得原価と同様30,000円となっている。当期末にA社株式の時価を算定したところ、時価は12,000円となっていた。取得原価までの回復可能性については不明である。期末のA社株式に関する処理を行いなさい。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
投資有価証券評価損 18,000 投資有価証券 18,000

上記設例において、A社株式は60%下落しており、回復可能性も不明であるため減損処理の対象となります。減損対象となった有価証券については切放法が採用されるため、翌期首の振替処理は行わないことに注意する必要があります。

有価証券の減損(その他の実務上の注意点)

上記の通り、50%以上時価が下落した場合、『著しく下落した』時に該当し、取得原価まで回復すると見込まれる場合を除き減損処理が必要となります。下落率が30%以上50%未満の場合には、状況に応じ個々の企業において時価が『著しく下落した』と判断するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断することになりますが、個々の銘柄の有価証券の時価の下落率がおおむね30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないものとされることになります。
時価の下落について『回復する見込みがある』と認められるときとは、株式の場合、時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合をいいます。ただし、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合には、通常は回復する見込みがあるとは認めらません(金融商品会計に関する実務指針 第91項参照)。
なお、回復可能性は取得原価にほぼ近い水準までの回復可能性をいいます。下落率60%の株式について、翌年度には下落率40%まで回復見込であり、下落率50%未満になる見込であることだけを持って減損対象から外すことはできません。

(具体例-有価証券の減損・回復可能性について)

当社が保有するB社株式30,000円はその他有価証券に該当し、現在の帳簿価額は取得原価と同様30,000円となっている。当期末にB社株式の時価を算定したところ、時価は12,000円となっていた。期末後のB社の株価推移や市場環境の動向、入手した事業計画や期末日後の業績などから翌期末までに18,000円まで回復可能性があると判断した。B社株式に関する処理を行いなさい。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
投資有価証券評価損 18,000 投資有価証券 18,000

B社株式は、期末日後の株価推移や事業業績などから18,000円(下落率40%)程度まで回復可能性があると判断しているが、減損の判断における回復可能性は、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合をいいますので、B社株式の帳簿価額を時価まで引き下げ、評価損を計上する事が必要となります。

有価証券の減損(法人税法における取扱い)

法人税法上、上場株式等の時価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないとき、有価証券の価額が著しく低下したものとして評価損の計上が認められています(法人税法施行令 第68条第1項第2号イ、法人税法基本通達9-1-7参照)
なお、税務上損金算入に関する合理的説明が困難であり、有税により減損処理を行った場合、将来減産一時差異が発生するため税効果会計の適用が必要となります。

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