有価証券の減損(実価法)の会計処理

時価を把握することが極めて困難と認められる株式については、取得原価をもって評価することになりますが、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならければなりません(金融商品に関する会計基準 第19項第21項参照)。
これは有価証券の減損処理といい、特に時価を把握することが極めて困難な株式に関する上記の方法は『実価法』と呼ばれることもあります。
なお、上記の発行会社の財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいいますが、このほか超過収益力などを1株当たりの純資産額に反映させることもあります。
当該株式の実質価額は、この1株当たりの純資産額を使用し、通常は以下の算式によって求められます。

(株式の実質価額)
1株当たりの純資産額=(資産-負債)÷発行済み株式総数
株式の実質価額=1株当たりの純資産額×所有株式数

上記の資産・負債を算定するために基礎とする財務諸表は、決算日までに入手し得る直近のものを使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していればその事項も加味します。
当該株式の実質価額が『著しく低下したとき』とは、少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます。ただし、当該株式の実質価額について、取得原価までの回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められます(時価を把握することが極めて困難な株式は取得原価で評価するため、回収可能性はあくまでも取得原価までの回収可能性を意味しています。 金融商品会計に関する実務指針第92項参照)。
なお、時価のある有価証券の減損処理については、有価証券の減損(強制評価減)の会計処理をご参照ください。

(具体例-有価証券の減損・実価法)

当社が保有するC社株式30,000円はその他有価証券に該当し、現在の帳簿価額は取得原価と同様30,000円となっている。C社株式は非上場株式であり、時価を把握することが極めて困難な株式であるが、入手した財務諸表以下の通りであり、財政状態は著しく悪化しており、回復可能性は不明である。C株式に関する期末の仕訳を示しなさい。

(C社財務諸表)
総資産:500,000円 総負債:400,000円 株式発行総数100株 当社保有株式数10株

(計算過程)

1株当たりの純資産額:(500,000円-400,000円)÷100株=1,000円
当社保有株式の実質価額:1,000円×10株=10,000円(取得原価30,000円と比較し50%以上下落しており減損処理を行う)
減損処理額:30,000円-10,000円=20,000円

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
投資有価証券評価損 20,000 投資有価証券 20,000

減損による評価損は損益計算書上では特別損失と表示します。なお、減損対象となった有価証券については、当該時価及び実質価額を翌期首の取得原価とすることになりますので、翌期首の振替処理は必要ありません切放法、なお金融商品に関する会計基準 第22項参照)。

減損における回復可能性について

上記の通り、時価を把握することが極めて困難な株式の減損処理に関しては、回復可能性の検証を行い、取得原価までの回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められますが、時価を把握することが極めて困難な株式に関しては、金融商品会計において取得原価で評価することが明記されているため、回収可能性はあくまでも取得原価までの回収可能性を意味しています (金融商品に関する会計基準第19項 金融商品会計に関する実務指針第92項参照)。したがって、実質価額が取得原価に対し60%下落している株式について、事業計画などから下落率40%まで回復可能性が高いと判断した場合であっても、取得原価までの回復可能性を示すことができない以上、60%分の減損処理が必要となります。

(具体例-有価証券の減損・回復可能性について)

当社が保有するD社株式30,000円は子会社株式に該当し、現在の帳簿価額は取得原価と同様30,000円となっている。D社は非上場会社であり、時価を把握することは極めて困難であるが、直近の財務諸表を入手し、当社保有のD社株式の実質価額を算定したところ12,000円まで下落していることが判明した。しかし期末後のD社の業績や、入手した事業計画などから18,000円まで回復可能性があると判断した。D社株式に関する処理を行いなさい。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
子会社株式評価損 18,000 子会社株式 18,000

D社株式は、期末日後の事業業績や事業計画などから18,000円(下落率40%)程度まで回復可能性があると判断しているが、減損の判断における回復可能性は、取得原価まで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合をいいますので、D社株式の帳簿価額を実質価額まで引き下げ、評価損を計上する事が必要となります。なお、このような回復可能性があるという判断をするために入手する事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限としていること、また回復可能性に関しては毎期見直しが必要であることに留意する必要があります(金融商品会計に関する実務指針第285項参照)。

有価証券の減損(法人税法における取扱い)

法人税法上、有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化し、その価額が著しく低下したときには評価損の損金算入が認められます。有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこととは、当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったことをいい、会計上と同様に評価損の計上が可能となります。(法人税法施行令 第68条第1項第2号ロ、法人税法基本通達9-1-9参照)
なお、税務上損金算入に関する合理的説明が困難であり、有税により減損処理を行った場合、将来減産一時差異が発生するため税効果会計の適用が必要となります。

スポンサードリンク