合併の対価として自己株式を処分した時の処理(企業結合会計)

吸収合併などの企業結合の対価として、新株式を交付する代わりに(または新株式の交付と合わせて)自己株式を処分することがあります。
企業結合の対価として自己株式を処分する場合の手順は以下の通りです。

1.企業結合日における時価をもとに被取得企業の取得原価を算定する

企業結合の対価として自己株式を処分する場合、または自己株式の処分と新株式の発行を合わせて行う場合には被取得企業の取得原価は、処分する自己株式及び新たに発行する株式の企業結合日における時価をもとに算定します。

企業の取得原価=対価として交付する株式(自己株式及び新株式の合計)の企業結合日における時価

2.のれん又は負ののれんを計上する

取得原価は被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち、企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として当該資産及び負債に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項参照)。
取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額(資産の時価と負債の時価との差額)を上回る場合にはその超過額はのれんとし、下回る場合には、その不足額は負ののれんとして処理することになります。

企業の取得原価-(受け入れた資産の時価-引き受けた負債の時価)=のれん※

※ 取得原価が受け入れた資産の時価と負債の時価との差額(資産負債の純額)を上回る場合にはのれん、下回る場合には負ののれんとして処理します。

3.増加する払込資本の額と内訳の決定

取得企業が企業結合の対価として自己株式を処分した場合(新株発行を併用した場合を含む)には、増加すべき株主資本の額(交付した株式の時価)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として処理することになります。

払込資本の増加額=交付した株式の時価-自己株式の帳簿価額

なお増加する払込資本の内訳は分配可能額を定める会社法の規定(資本金または資本金及び資本剰余金。試験問題では問題分の指示にしたがうこと)に基づき決定することになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第80項・第388項等参照)。

(具体例-企業結合の対価として自己株式を処分した時)

A社(取得企業)はB社を吸収合併した。B社の合併直前の貸借対照表は以下の通りである。A社の合併仕訳を示しなさい。

(B社の貸借対照表)
諸資産 5,000 諸負債 2,000
資本金 1,800
利益剰余金 1,200

1.合併に際し、A社はB社の株主に対し100株のA社株式を交付した(100株の内訳は新株式80株、自己株式の処分20株)。
2.処分する自己株式20株の帳簿価額は800円であった。
3.A社株式の企業結合日における時価は1株当たり50円、B社の諸資産の時価は6,000円、諸負債の時価は2,000円であった。
4.A社の増加する払込資本はすべて資本金として計上するものとする。

(計算過程)
B社の取得原価:交付するA社株式100株×企業結合日におけるA社株式の時価@50円=5,000円
B社から受け入れた諸資産に配分される取得原価:6,000円(企業結合日における時価)
B社から引き受けた諸負債に配分される取得原価:2,000円(企業結合日における時価)
受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額:資産6,000円-負債2,000円=4,000円
のれん計上額:取得原価5,000円-資産負債に配分された純額4,000円=1,000円(正ののれん)

増加する払込資本の額:交付した株式の時価5,000円-自己株式の帳簿価額800円=4,200円

(仕訳-A社の合併受入仕訳)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 6,000 諸負債 2,000
のれん 1,000 資本金 4,200
自己株式 800

増加する払込資本の額は交付する株式(自己株式含む)の時価5,000円から自己株式の帳簿価額800円を差し引いた4,200円となります。
今設問では増加する払込資本はすべて資本金とするとありますので、資本金を4,200円増加させています(試験などでは問題文の指示に従ってください)。

(関連項目)
取得原価の算定 とパーチェス法の基礎(企業結合会計)
吸収合併の仕訳の基礎(企業結合会計)
企業結合に係る特定勘定の仕訳の基礎
段階取得の場合における合併仕訳の基礎(個別財務諸表)

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