ファイナンスリース取引の貸手(貸手の見積残存価額のある場合)の仕訳

ファイナンス・リース取引の会計処理について、貸手の見積残存価額がある場合、貸手の会計処理のポイントは以下のようになります。

1.貸手の計算利子率算定:リース料総額とリース期間終了時に見積られる残存価額の合計額の現在価値が、当該リース物件の現金購入価額と等しくなるような利率として算定します。
2.ファイナンスリース取引の判定:現在価値基準の判定において、貸手の見積残存価額はリース料総額には含めません。
3.売上高の計上:売上高はリース料総額(取引開始日に売上計上する方法)または受取リース料(リース料受取時に売上高を計上する方法)をもって計上します。見積残存価額を売上高に計上することはありません。

以下、ファイナンスリース取引の貸手の会計処理における見積残存価額の取り扱いについては、以下の具体例をご参照ください。

(具体例-ファイナンスリース取引の貸手・見積残存価額の取り扱い)

当社(リース取引の貸手)は×1年4月1日(期首)に以下の条件でリース契約を締結した。以下の時点における仕訳をそれぞれ示しなさい。

1.×1年4月1日(リース取引開始時)
2.×2年3月31日(リース料受取時)
3.×5年3月31日(リース取引終了時)

1.リース期間4年
2.リース物件の貸手の現金購入価額420,000円であり、代金は掛けとした
3.リース物件の見積残存価額が20,000円である。
4.リース料の受取りは毎年3月31日に1年分のリース料120,000円を後受けする
5.リース取引開始日はX1年4月1日、当社の決算日は3月31日である
6.当該リース取引には割安購入選択権・所有権移転条項はなく、特別仕様のリース物件にも該当しない。
7.当該資産の経済的耐用年数は5年である。
リース取引の判定

まず、割引計算で使用する貸手の計算利子率を算定します。貸手の計算利子率はリース料総額とリース期間終了時に見積られる残存価額の合計額の現在価値が、当該リース物件の現金購入価額と等しくなるような利率として算定しますので以下の算式によって算定します。

(計算過程-貸手の計算利子率)
420,000円=120,000円/(1+r)+120,000円/(1+r)^2年+120,000円/(1+r)^3年+(120,000円+20,000円)/(1+r)^4年

これを解くとr=7.1774%となり、当該リース取引の貸手の計算利子率は7.1774%となります。
この貸手の計算利子率を用いてリース料総額の割引現在価値を算定すると以下のようになります。

(計算過程-リース料総額の割引現在価値)
120,000円/(1+0.071774)+120,000円/(1+0.071774)^2年+120,000円/(1+0.071774)^3年+120,000円/(1+0.071774)^4年=404,843円

したがってリース取引の判定は
現在価値基準:割引現在価値404,843円>貸手の現金購入価額420,000円×90%
経済的耐用年数基準:リース期間4年>経済的耐用年数5年×75%

上記より、この取引はファイナンス・リース取引に該当します(上記の現在価値基準および経済的耐用年数基準のいずれかを満たせばファイナンスリース取引に該当します)。
また、当該リース取引には割安購入選択権・所有権移転条項はなく、特別仕様のリース物件にも該当しないため、このリース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当することになります。
なお、当該リース取引におけるリース投資資産の回収スケジュールは以下のようになります。

期間 期首残高 支払利息 元本返済 期末残高
×2年3月期 420,000 30,145 89,855 330,145
×3年3月期 330,145 23,696 96,304 233,841
×4年3月期 233,841 16,784 103,216 130,625
×5年3月期 130,625 9,375 110,625 20,000※

※ 見積り残存価額20,000円

1. リース取引開始日に売上計上する方法(第1法)の仕訳処理

(×1年4月1日-リース取引開始時)
リース取引開始日に売上計上する方法(第1法)では、リース取引開始日においては、リース料総額をもって売上高を計上します。またリース投資資産はリース料総額と見積残存価額の合計額を計上し、売上原価はリース物件の現金購入価額から見積残存価額を控除して計上します。
仕訳は以下の手順でおこないます。

(仕訳-リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
リース投資資産 480,000 売上高 480,000
売上原価 420,000 買掛金 420,000
リース投資資産 20,000 売上原価 20,000


売上高:リース料総額480,000円(120,000円×4回分)
売上原価:リース物件の現金購入価額420,000円-見積残存価額20,000円(20,000円分は戻ってくるので売上原価から控除する)
リース投資資産:リース料総額480,000円+見積残存価額20,000円

(×2年4月1日-受取リース料の回収時・決算時)
リース取引開始日に売上計上する方法では、リース料を受け取った時は、受取額についてリース投資資産を減額します。
またこの方法では、決算時の処理としてリース取引開始時において計上された売上高(リース料総額)と売上原価(リース物件の購入価額-見積残存価額)との差額である利息相当額について、決算時においてリース期間の各期に配分し、各期の損益として処理します。したがって決算時において翌期以降の期間に対応する利息相当額について『繰延リース利益繰入』『繰延リース利益』勘定を使用し、これを利益から控除し、翌期へ繰り延べます。

(仕訳・リース料回収時・決算時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 リース投資資産 120,000
繰延リース利益繰入 49,855 繰延リース利益 49,855


利息相当額:売上高480,000円-売上原価400,000円=80,000円
当期に配分される利息相当額:期首リース投資資産残高420,000円×貸手の計算利子率7.1774%=30,145円
翌期以降に配分される利息相当額:利息相当額80,000円-当期分30,145円=49,855円

(×5年3月31日-最終回のリース料の回収時)
リース取引開始日に売上計上する方法では、最終回のリース料を受け取った時は、受取額についてリース投資資産を減額します。
また、繰り延べられてきた『繰延リース利益』について、戻り入れを行います。
さらにリース物件の返還を受けますので、リース物件の見積残存価額について、リース投資資産から貯蔵品勘定へと振り替える仕訳をおこないます。

(仕訳-最終回のリース料回収時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 リース投資資産 120,000
繰延リース利益 9,375 繰延リース利益戻入益 9,375
貯蔵品 20,000 リース投資資産 20,000


当期に配分される利息相当額(戻入額):期首リース投資資産残高130,625円×貸手の計算利子率7.1774%=9,375円
貯蔵品:見積残存価額(リース投資資産残高)

2. リース料受取時に売上計上する方法(第2法)の仕訳処理

(×1年4月1日-リース取引開始時)
リース料受取時に売上計上する方法(第2法)では、リース取引開始日においては、リース物件の現金購入価額を『リース投資資産』勘定(資産)として計上します。

(仕訳-リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
リース投資資産 420,000 買掛金 420,000


リース投資資産:リース物件の現金購入価額420,000円

(×2年4月1日-受取リース料の回収時)
リース料受取時に売上計上する方法では、リース料を受け取った時は、受取ったリース料を『売上高』として計上すると同時に、受け取ったリース料から利息相当額を控除した金額を『売上原価』として計上することになります。

(仕訳-リース料回収時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 売上高 120,000
売上原価 89,855 リース投資資産 89,855


売上高:リース料受取額120,000円
売上原価:リース料受取額(売上計上額)-利息相当額30,145円=89,855円

(×5年3月31日-最終回のリース料の回収時)
リース料受取時に売上計上する方法では、最終回のリース料を受け取った時は最終回分の『売上高』と『売上原価』とを計上します。またリース物件の返還を受けますので、リース物件の見積残存価額について、リース投資資産から貯蔵品勘定へと振り替える仕訳をおこないます。

(仕訳-最終回のリース料回収時・リース物件回収時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 売上高 120,000
売上原価 110,625 リース投資資産 110,625
貯蔵品 20,000 リース投資資産 20,000


売上高:リース料受取額120,000円
売上原価:リース料受取額(売上計上額)-利息相当額9,375円=110,625円
貯蔵品:見積残存価額20,000円

3. 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法(第3法)の仕訳処理

(×1年4月1日-リース取引開始時)
売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法(第3法)では、リース取引開始日においては、リース物件の現金購入価額を『リース投資資産』勘定(資産)として計上します。

(仕訳・リース取引開始時)
借方 金額 貸方 金額
リース投資資産 420,000 買掛金 420,000


リース投資資産:リース物件の現金購入価額420,000円

(×2年4月1日-受取リース料の回収時・決算時)
売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法を採用した場合、リース料を受け取った時は受取額を利息相当額部分と元本回収部分とに区分し、前者を『受取利息』として収益計上し、後者を『リース投資資産』の減少として記帳します。

(仕訳・リース料回収時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 受取利息 30,145
リース投資資産 89,855


受取利息:利息相当額の当期配分額30,145円
リース投資資産減少額:リース料受取額120,000円-利息相当額30,145円=89,855円

(×5年3月31日-最終回のリース料の回収時)
売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法では、最終回のリース料を受け取った時は最終回分の『受取利息』と『リース投資資産』の減少を計上します。またリース物件の返還を受けますので、リース物件の見積残存価額について、リース投資資産から貯蔵品勘定へと振り替える仕訳をおこないます。

(仕訳-最終回のリース料回収時・リース物件回収時)
借方 金額 貸方 金額
現金預金 120,000 受取利息 9,375
110,625 リース投資資産 110,625
貯蔵品 20,000 リース投資資産 20,000


受取利息:利息相当額の当期配分額9,375円
リース投資資産減少額:リース料受取額120,000円-利息相当額9,375円=110,625円
貯蔵品:見積残存価額(リース投資資産残高)

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