資産除去債務の算定(計上額の算定)と会計処理

資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、これを割引計算することによって算定することになります(資産除去債務に関する会計基準 第6項参照)。
割引前将来キャッシュ・フロー及び割引率の算定における留意点は以下のようになります(なお、資産除去債務の負債計上や費用配分に関する基本的事項については資産除去債務の仕訳・会計処理(基本)をご参照ください)。

1.割引前将来キャッシュ・フローの算定

割引前の将来キャッシュ・フローの算定については、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによるものとします。その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額となります。(資産除去債務に関する会計基準 第6項(1)参照)。
実務上は、次のような情報を基礎として、自己の支出見積りとしての有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積ることになります。

1.対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積り
2.対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎となった数値
3.過去において類似の資産について発生した除去費用の実績(1が明らかでない場合など)
4.当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積られた除去費用
5.有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)を行う業者など第三者からの情報(業者へ見積りを依頼することまでは求められませんが、第三者からの情報を適宜利用することなどが想定されます)。

企業は、上記の1から5により見積られた金額に、インフレ率や見積値から乖離するリスクを勘案します。また、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき、技術革新などによる影響額を見積ることができる場合には、これを反映させることになります。なお、将来キャッシュ・フローの見積りには、法人税等の影響額を含めません。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第3・4・18から22項参照)。

2.割引率の算定

割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とします。原則として将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考に割引率を決定することとなります。なお、割引前将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いることになります(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第5・23項参照)。

(具体例-資産除去債務の算定)

以下の施設建築時における資産除去債務を計上するための仕訳を示しなさい。

(条件)
当社は借地に施設を建築し、操業を開始した。借地権契約の期間満了は10年後であり、10年後には施設を解体・撤去し、更地にして返却する契約となっている。
当社は、当該施設の解体・撤去に係る割引前の将来キャッシュ・フローの見積金額に期待値(生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額)を使用するものとする。
施設の解体・撤去に係る予想労務費は、現在において解体業に従事する者を雇うのに要する平均的な賃金を基礎とする。当社は生起し得る複数の将来キャッシュ・フロー(見積値から乖離するリスクを反映済み)及びその発生確率を次のように予測する。

インフレ率補正前予測キャッシュ・フロー 発生確率 期待値
600円 40% 240円
500円 20% 100円
400円 40% 160円
加重平均(期待値の合計) 500円

当社は、解体業者が施設の解体にかける間接費及び設備費用を、上記の労務費の60%と仮定するものとする。また、解体業者が施設を解体・撤去する際の利益は、過去の実績から労務費及び間接費等の合計額の30%であるものと仮定する。
施設建築時における利付国債(残存期間10年)の流通利回りは2%である。また当社では10年間のインフレ率は年平均1%となると予測する。

(計算過程)
資産除去債務の計上額は割引前将来キャッシュフローを割引計算することによって算定します。まず割引前キャッシュフロ-は条件の指示に従い以下のように算定します。

施設の解体に係る予測労務費:500円
施設の解体に係る予測間接費等:500円×60%=300円
解体業者の利益:(500円+300円)×30%=240円
∴割引前CF:500円+300円+240円=1,040円

インフレ考慮後の割引前CF:1,040円×(1.01^10年)=1,149円
割引現在価値:1,149円/(1.02^10年)=943円

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
建物 943 資産除去債務 943

資産除去債務の費用配分や時の経過による調整額については資産除去債務の仕訳・会計処理(基本)をご参照ください。
なお、上記の具体例は資産除去債務に関する会計基準の適用指針・設例2を参考に、設問仮定や数値を大幅に単純化し、さらに詳細な説明・計算過程などを加筆して作成しています。より詳細な理解が必要な場合は適用指針の設例2も合わせてご参照ください。

(関連項目)
複数資産にかかる資産除去債務の仕訳・会計処理

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