資産除去債務の仕訳・会計処理(基本)

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去(売却や廃棄など)に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます(資産除去債務に関する会計基準 第3項参照)。

たとえば、事業用定期借地権契約満了時における原状回復義務の履行に伴う造作撤去費用などがこれに該当します。

会計上、資産除去債務は有形固定資産の取得・建設・開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上することが求められます。この時の負債計上額は有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、これを割引計算することによって算定します(資産除去債務に関する会計基準 第4・5・6項参照)。

たとえば2年契約の借地上に建てた建物について、建築時から2年後に1,000円の建物を撤去するための支出が発生すると見積もられる場合、資産除去債務の計上額である割引価値は以下のように算定します(割引率2%として算定)

(割引前キャッシュ・フロー)
建築時 1年後 2年後
割引前CF 0円 0円 1,000円
割引価値 961円 980円 1,000円

・割引計算:1,000円/(1+0.02)^2=961円

また、資産除去債務に対応する除去費用(資産除去債務計上時の相手勘定)は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えることになります。
たとえば、建物に関する資産除去債務961円を計上した時の仕訳は以下のようになります。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
建物 961 資産除去債務 961

上記の処理により資産計上された資産除去債務に対応する除去費用(機械961円)は、当該機械の減価償却を通じて、残存耐用年数にわたり各期に費用配分することになります。
いっぽう、割引計算によって算定された資産除去債務の調整額(時の経過による増加額)は、期首の資産除去債務の帳簿価額に割引率を乗じて算定し、各期の費用(利息費用)として処理することになります(資産除去債務に関する会計基準 第7・9項参照)。

(具体例-資産除去債務)

1.当社(決算日は毎年3月末日)は×1年4月1日に機械を取得し、同日から使用を開始した。当該機械の取得原価は1,000,000円であり、代金は現金で支払った。なおこの機械の耐用年数は4年(定額法・残存価額0円)であり、当社には当該機械を使用後に除去する法的義務がある。
当社が当該機械を除去するときの支出は100,000円と見積られるものとし、当該機械の取得時の仕訳を示しなさい(資産除去債務の計上に関する割引率は2%として算定すること)。

(計算過程)
資産除去債務の負債計上額は、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、これを割引計算することによって算定します。したがって、当該機械の除却に要する割引前キャッシュフローを割引率2%で割り引き、現時点における割引価値を算定しこれを資産除去債務として負債計上します。

割引価値:100,000円×(1+0.02)^4年=92,385円

(仕訳-購入時)
借方 金額 貸方 金額
機械 1,092,385 現金 1,000,000
資産除去債務 92,385

2.×2年3月31日決算日を迎えた。上記の機械及び資産除去債務に関し、決算時に必要な仕訳を示しなさい。

(計算過程)

減価償却費:1,092,385円/4年=273,096円
資産除去債務調整額:92,385円×2%=1,848円

(仕訳-決算時)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 273,096 減価償却累計額 273,096
利息費用 1,848 資産除去債務 1,848

時の経過による資産除去債務の調整額(利息費用)は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します(資産除去債務に関する会計基準 第14項参照)。

3.×3年3月31日決算日を迎えた。上記の機械及び資産除去債務に関し、決算時に必要な仕訳を示しなさい。

(計算過程)

減価償却費:1,092,385円/4年=273,096円
資産除去債務調整額:(92,385円+1,848円)×2%=1,885円

(仕訳-決算時)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 273,096 減価償却累計額 273,096
利息費用 1,885 資産除去債務 1,885

4.×5年3月31日において上記の機械を除去した。機械の除去に係る支出額は105,000円 であり、現金で支払った。
(計算過程)

減価償却費:1,092,385円-(273,096円×3年)=273,097円
資産除去債務調整額:100,000円-(92,385円+1,848円+1,885円+1,922円)=1,960円
履行差額:100,000円-105,000円=△5,000円

(仕訳-決算時)
借方 金額 貸方 金額
減価償却費 273,097 減価償却累計額 273,097
利息費用 1,960 資産除去債務 1,960
減価償却累計額 1,092,385 機械 1,092,385
資産除去債務 100,000 現金 105,000
履行差額 5,000

実際の除去費用と資産除去債務計上額(見積額)との差額は履行差額として費用(または収益)として計上します。
また、この資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上します(資産除去債務に関する会計基準 第15項参照)。

(関連項目)
資産除去債務の算定(計上額の算定)と会計処理

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