小規模企業の簡便な方法(退職給付債務)の仕訳
1.簡便法が適用できる小規模企業とは
従業員数が比較的少ない小規模な企業等においては、簡便な方法を用いて退職給付に係る負債(退職給付引当金)及び退職給付費用を計算することができます。
簡便法を適用できる小規模企業等とは、原則として、退職給付債務の計算対象となる従業員数が300人未満の企業を指しますが、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則的な方法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、300人を超える場合であっても簡便法によることができます(退職給付に関する会計基準第26項、退職給付に関する会計基準の適用指針第47項参照)。
2.簡便法における退職給付に係る債務と退職給付費用の算定
簡便法における退職給付に係る債務(退職給付引当金)と退職給付費用の算定は以下の算式で求められます(退職給付に関する会計基準の適用指針第48・49項参照)。
非積立型 | ・退職給付引当金=期末の退職給付債務
・退職給付費用=期末退職給付引当金-(期首退職給付引当金-当期退職給付支払額) |
積立型 | ・退職給付引当金=期末の退職給付債務-年金資産
・退職給付費用=期末退職給付引当金-(期首退職給付引当金-年金資産拠出額-当期退職給付支払額) |
3.退職給付債務の算定
簡便法における退職給付債務の算定は、以下の方法のうち各事業主の実態から合理的と判断される方法を選択して計算します。なお、いったん選択した方法は、原則として継続適用することが必要です(退職給付に関する会計基準の適用指針第50項参照)。
退職一時金制度 | 1.退職給付債務=期末自己都合要支給額×比率指数(※1)
2.退職給付債務=期末自己都合要支給額×平均残存勤務期間に対応する割引率係数及び昇給率係数(※2) 3.退職給付債務=期末自己都合要支給額 |
企業年金制度 | 4.退職給付債務=直近の年金財政計算における数理債務の額×比率指数(※3)
5.在籍する従業員については上記2、3の方法により計算した金額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする 6.退職給付債務=直近の年金財政計算における数理債務の額 |
(※1)比率指数:会計基準の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算したの額と自己都合要支給額との比率(原則法により計算された親会社の比較指数を用いることに合理性があると判断される場合には、親会社の比較指数を用いることもできます)。
(※2)平均残存勤務期間に対応する割引率係数及び昇給率係数は、退職給付に関する会計基準の適用指針資料1・2をご参照ください。詳細な計算方法は当ページ下記具体例でもご参照いただけます。
(※3)比率指数:会計基準の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算したの額と年金財政計算上の数理債務の比率(原則法により計算された親会社の比較指数を用いることに合理性があると判断される場合には、親会社の比較指数を用いることもできます)。
また退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している事業主においては、次のいずれかの方法で退職給付債務を計算します(退職給付に関する会計基準の適用指針第51項参照)。
1.退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を上記の方法によりそれぞれ計算する方法 2.在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする方法 |
(具体例1-平均残存勤務期間に対応する割引率及び昇給率を用いる方法)
以下の条件において、当期の期末の退職給付に関する仕訳を示しなさい。なお当社は退職一時金制度を採用しており外部積立の年金資産はないものとし、また従業員300人未満の小規模企業に該当するものとして退職給付債務の算定は適用指針第50項1-2の簡便法(上記2の期末自己都合要支給額に平均残存勤務期間に対応する割引率及び昇給率係数を乗じる方法)を採用しているものとする。
(要件)
当期末の自己都合要支給額:400,000円
当期首の自己都合要支給額:300,000円
当期の退職金支給額:3,000円
平均残存勤務期間:15年
昇給率:3.5%
割引率:4.5%
(計算過程)
この方法では、期末の退職給付債務は期末自己都合要支給額に平均残存勤務期間に対応する割引率及び昇給率係数を乗じて算定しますので計算式は以下のようになります。
昇給率係数:(1+0.035)^15年=1.67535(適用指針の資料1の表をご参照ください)
割引率係数:1÷(1+0.045)^15年=0.51672(適用指針の資料2の表をご参照ください)
期首の退職給付債務:300,000円×0.51672×1.67535=259,706円
期末の退職給付債務:400,000円×0.51672×1.67535=346,275円
∴当期の退職給付費用:346,275円-(259,706円-3,000円)=89,569円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
退職給付費用 | 89,569 | 退職給付引当金 | 89,569 |
(具体例2-期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法)
以下の条件において、当期の期末の退職給付に関する仕訳を示しなさい。なお当社は退職一時金制度を採用しており外部積立の年金資産はないものとし、また従業員300人未満の小規模企業に該当するものとして退職給付債務の算定は適用指針第50項1-3の簡便法(期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法)を採用しているものとする。
(要件)
当期末の自己都合要支給額:400,000円
当期首の自己都合要支給額:300,000円
当期の退職金支給額:3,000円
(計算過程)
この方法では要支給額をそのまま退職給付債務(退職給付引当金)として計上しますので、計算式は以下のようになります。
当期の退職給付費用:400,000円-(300,000円-3,000円)=103,000円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
退職給付費用 | 103,000 | 退職給付引当金 | 103,000 |
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