繰延資産(会計上の繰延資産)とは

繰延資産とは、すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用をいいます。これらの費用は、その効果が及ぶ数期間に合理的に配分するため、経過的に貸借対照表上繰延資産として計上することができます。
すでに提供を受けたサービスであり、代金も支払っており、本来ならば費用計上すべきものですが、その効果が次期以降も期待できるため、いったん資産として計上し、その効果が及ぶ期間にわたって費用として取り崩していくことを目的に資産計上された費用といえます。

会計上の繰延資産(会社法上の繰延資産)の内容

企業会計基準委員会「実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」において、繰延資産として取り扱う項目として以下の5つを挙げています。

(会計上の繰延資産)
項目 内容
株式交付費 株式交付費とは、株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用をいいます。
(償却期間)3年
社債発行費 社債発行費とは、社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用をいいます。
(償却期間)社債の償還期限内
創立費 創立費とは、会社の負担に帰すべき設立費用、例えば、定款及び諸規則作成のための費用、株式募集ための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額等をいいます。
(償還期間)5年
開業費 開業費とは、土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、水道光熱費など、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用をいいます。
(償還期間)5年
開発費 開発費とは、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用をいいます。ただし、経常費の性格をもつものは開発費には含まれません。
(償還期間)5年

繰延資産には、将来効果の発現が不確実であり換金価値がないという特質があり、このような資産を無制限に貸借対照表に計上する事への制限から、旧商法では繰延資産を限定列挙していました。しかし現行の会社法においては、繰延資産の限定列挙をやめ、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を繰延資産とすると規定しているのみであり(会社法計算規則第74条第3項5)、具体的な記載はなされておりません。したがって、会社法上の繰延資産は一般に公正妥当と認められる会計基準を斟酌することになります(会社法計算規則第3条)。
会社法上の上記の扱いを受けて、企業会計基準委員会は「実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」を公表し、同取扱いで示された5項目を会計上の繰延資産(会社法上の繰延資産ともいいます)とし、繰延経理を容認するというスタイルが取られています(原則は期間費用として処理)。
なお繰延経理を採用した場合でも、支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、その未償却残高を一時に償却しなければなりません。

会計上の繰延資産の税法上の取り扱い(実務上の注意)

会計上の繰延資産は上記の5つとされていますが、法人税法における繰延資産は「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう」(法人税法第2条第24号)と定められており、より広い概念でとらえられています(会計上の繰延資産を含む)。
なお、会計上の繰延資産の5項目に関し、税法上はその帳簿価額を償却限度額とし、損金算入時期は損金経理を条件として会社の経理にゆだねられています。したがって課税所得算定上、上記5項目に関しては会社が費用処理(損金経理)を行ったときにその全額が損金として認められることとなります(法人税法施行令第14条第1項、第64条第1項、法人税法第32条参照)

(関連項目)
研究開発費の仕訳・会計処理

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