逆取得と判定された吸収合併の仕訳の基礎(個別財務諸表)

ある会社が他の会社を吸収合併する場合において、存続する会社ではなく、消滅する会社の株主の方が合併後の企業に対する支配権を獲得するなど、存続する企業とは異なる方の企業が取得企業と判定される企業結合を逆取得といいます。

吸収合併が逆取得と判定された場合の吸収合併存続会社(被取得企業と判定された会社)の個別財務諸表上の会計処理は、吸収合併消滅会社(取得企業と判定された会社)の資産及び負債を合併直前の適正な帳簿価額により引き継ぎ、計上することになります(企業結合に関する会計基準 第34項参照)。
また、引き継ぐ資産負債の差額については次のように処理することになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84項参照)。

1.合併に際し存続会社の新株のみを発行した場合

吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を存続会社の払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理します。(原則処理。なお払込資本のうち資本金、資本準備金、その他資本剰余金のどの項目を増加させるかについては、会社法の規定に基づき決定します)。
なお、合併の対価として存続会社の新株のみを発行している場合においては、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目を、抱合せ株式等の会計処理を除き、そのまま引き継ぐこともできます(容認規定)

(逆取得と判定された合併引き継ぎ仕訳の基本形)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 (帳簿価額) 諸負債 (帳簿価額)
払込資本など (差額)

2.合併に際し存続会社の自己株式を処分した場合(新株発行と併用する場合も含む)

吸収合併存続会社(被取得企業)は、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した差額を払込資本の増加として処理します(原則処理。なお当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少をさせることになります)。
なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の株主資本の構成をそのまま引き継ぎ、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除することもできます(容認規定)。

(逆取得と判定された合併引き継ぎ仕訳の基本形-自己株式を処分した場合)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 (帳簿価額) 諸負債 (帳簿価額)
払込資本など (差額)
自己株式 (帳簿価額)

3.株主資本項目以外の処理

評価換算差額や新株予約権など、吸収合併消滅会社(取得企業)の株主資本以外の項目について、吸収合併存続会社(被取得企業)は合併期日の前日の適正な帳簿価額を引き継ぎます。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引き継ぐことになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84項(1)2参照)。

(逆取得と判定された合併引き継ぎ仕訳の基本形-評価換算差額など)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 (帳簿価額) 諸負債 (帳簿価額)
払込資本など (差額)
その他有価証券評価差額金 (帳簿価額)

4.抱き合わせ株式がある場合の処理

逆取得となる吸収合併において吸収合併消滅会社等が保有していた当該会社の自己株式または 吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社株式(合わせて抱き合わせ株式等)を保有していた場合、当該抱合せ株式等の額については、増加する株主資本項目について原則処理を採用する場合、または容認規定を採用する場合の別に以下のように処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-2、84-3項参照)

・原則処理を採用する場合:当該抱合せ株式等の額については、払込資本から減額する
・容認規定を採用する場合:当該抱合せ株式等の額については、その他資本剰余金から減額する

吸収合併消滅会社の新株予約権者に吸収合併存続会社の新株予約権等を交付した場合には、交付した新株予約権は吸収合併消滅会社から引き継いだ新株予約権の適正な帳簿価額を付すことになります。 また吸収合併消滅会社等の新株予約権者に対して現金を交付する場合には引き継いだ新株予約権の適正な帳簿価額と交付した現金との差額を当期の損益(新株予約権消却損益等)として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-4項参照)。

(具体例-逆取得と判定された吸収合併の個別上の仕訳)

B社はA社を吸収合併した。A社およびB社の合併前日の貸借対照表は以下の通りである。B社における個別上の仕訳を示しなさい。

(A社の貸借対照表)
諸資産 8,000 諸負債 2,000
資本金 4,000
利益剰余金 2,000
(B社の貸借対照表)
諸資産 3,000 諸負債 1,500
資本金 1,000
利益剰余金 500

1.B社がA社を吸収合併したが、当該吸収合併における取得企業はA社と判定された(逆取得)。
2.A社およびB社の発行済み株式数はそれぞれ60株と100株である。当該合併によりB社はA社株主に150株を交付するものとする。
3.A社株式の合併前日におけるの時価は1株当たり50円であるものとする。
4.合併日におけるA社の諸資産の時価は9,000円であるものとする。
5.B社の増加資本はすべて資本剰余金として計上するものとする。

(仕訳-B社の吸収合併時の個別会計上の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 8,000 諸負債 2,000
資本剰余金 6,000

逆取得と判定された吸収合併の個別会計上の処理について、吸収合併存続会社(被取得企業)B社は、吸収合併消滅会社(取得企業)A社の資産・負債を合併期日の前日の適正な帳簿価額により受け入れ、株主資本については原則としてこれを払込資本の増加として処理します(本問では資本剰余金の増加として処理しています)。
なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目をそのまま引き継ぐこともできます。
また、本問では設例上設けておりませんが、消滅会社の株主資本以外の項目(評価・換算差額等など)がある場合については、これを適正な帳簿価額を引き継ぐことになります。

(関連項目)
株式交換の仕訳の基礎(個別財務諸表上の処理)
吸収合併の仕訳の基礎(企業結合会計)
吸収合併(共同支配企業の形成)の仕訳・会計処理

スポンサードリンク