取得企業の決定方法(企業結合会計の基礎)

取得とは、ある企業が他の企業又は企業を構成する事業に対する支配を獲得することをいいます(企業結合に関する会計基準 第9項参照)。

また「取得企業」とは、ある企業又は企業を構成する事業を取得する企業をいい、当該取得される企業を「被取得企業」といいます(企業結合に関する会計基準 第10項参照)。
企業結合においては、共同支配企業の形成または共通支配下の取引以外の企業結合は取得と判定されることになります(企業結合に関する会計基準 第17項参照)。

なお、取得と判定された企業結合の会計処理はパーチェス法という会計処理を適用することになりますが、パーチェス法を適用するに当たっては当該企業結合に関わる企業のうち、いずれが「取得企業」かを決定することが必要となります。

被取得企業の支配を獲得することとなる取得企業を決定するために、まず第一に連結財務諸表に関する会計基準の考え方(支配力基準)を用いることになります。
すなわち、他の企業の意思決定機関を支配している企業を取得企業とし、その他の企業を被取得企業として判定することになります(連結財務諸表に関する会計基準 第7項等参照)。
ただし、上記の連結会計基準の考え方によってどの企業が取得企業となるかが明確ではない場合には、以下の要素を考慮して取得企業を決定することになります(企業結合に関する会計基準 第18項参照)。

1.取得企業の決定-対価の種類が現金その他の資産の引き渡しの場合

主な対価の種類として、現金や他の資産を引き渡すか、または負債を引き受けることとなる企業結合の場合には、通常、当該現金や他の資産を引き渡す又は負債を引き受ける企業が取得企業となります(企業結合に関する会計基準 第19項参照)。

2.取得企業の決定-対価の種類が株式の場合

主な対価の種類が株式(出資を含む)である企業結合の場合には、通常、当該株式を交付する企業が取得企業となります。ただし、必ずしも株式を交付した企業が取得企業にならないとき(逆取得)もあるため、対価の種類が株式である場合の取得企業の決定にあたっては、次のような要素を総合的に勘案することが必要となります(企業結合に関する会計基準第20項以下、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第32項以下参照)。

(取得企業の決定-対価の種類が株式の場合)
総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ ある結合当事企業の総体としての株主が、結合後企業の議決権比率のうち最も大きい割合を占める場合には、通常、当該結合当事企業が取得企業となります。なお、結合後企業の議決権比率を判断するにあたっては、議決権の内容や潜在株式の存在についても考慮することが必要です(権利行使の可能性がないと見込まれる場合には、考慮する必要はありません)。
最も大きな議決権比率を有する株主の存在 結合当事企業の株主又は株主グループのうち、ある株主又は株主グループが、結合後企業の議決権を過半には至らないものの最も大きな割合を有する場合であって、当該株主又は株主グループ以外には重要な議決権比率(関連会社にあたる程度にまでの議決権比率)を有していないときには、通常、当該株主又は株主グループのいた結合当事企業が取得企業となります。
取締役等を選解任できる株主の存在 結合当事企業の株主又は株主グループのうち、ある株主又は株主グループが、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の過半数を選任又は解任できる場合には、通常、当該株主又は株主グループのいた結合当事企業が取得企業となります。
取締役会等の構成 結合当事企業の役員若しくは従業員である者又はこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)を事実上支配する場合には、通常、当該役員又は従業員のいた結合当事企業が取得企業となります。
株式の交換条件 ある結合当事企業が他の結合当事企業の企業結合前における株式の時価を超えるプレミアムを支払う場合(たとえば、株式の交換比率の算定にあたり、企業結合の主要条件が合意された日などの企業結合前における株式の市場価格に加えて、支配する対価としてのプレミアムが反映されている場合など)には、通常、当該プレミアムを支払った結合当事企業が取得企業となります。

なお結合当事企業のうち、いずれかの企業の相対的な規模(例えば、総資産額、売上高あるいは純利益)が著しく大きい場合には、通常、当該相対的な規模が著しく大きい結合当事企業が取得企業となります(企業結合に関する会計基準 第21項参照)。
また、結合当事企業が3社以上である場合の取得企業の決定にあたっては、結合当事企業の相対的な規模に加えて、いずれの企業がその企業結合を最初に提案したかについても考慮する必要があります(企業結合に関する会計基準 第22項参照)。

(関連項目)
逆取得と判定された吸収合併の仕訳の基礎(個別財務諸表)
共同支配企業の形成の判定の基礎(企業結合会計)

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