吸収合併(共同支配企業の形成)の仕訳・会計処理

共同支配企業の形成とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、共同支配企業(共同で支配される企業)を形成する企業結合をいいます(企業結合に関する会計基準 第8,11,12項参照)。

合併や会社分割などの企業結合が、共同支配企業の形成と判定された場合、共同支配企業及び共同支配投資企業の会計処理は以下のようになります(企業結合に関する会計基準 第38,39項参照)。

(共同支配企業の形成における会計処理の基礎)
企業 処理方法
共同支配企業
(支配される企業)
共同支配企業は、共同支配投資企業から移転する資産及び負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額を引き継ぎ、計上します。
共同支配投資企業
(支配する側の企業)
共同支配企業に事業を移転した共同支配投資企業はの会計処理は次の通りです。

1.個別財務諸表上、当該共同支配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します。
2.連結財務諸表上、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用します。

なおこのページでは、共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の個別上の会計処理をもとに共同支配企業の形成に関する処理をご説明いたします。

吸収合併が共同支配企業の形成と判定された時の会計処理(個別財務諸表)

ある会社の子会社が他の会社の子会社を吸収合併する場合において、ある会社と他の会社が合併後の存続会社を共同支配するような場合、当該吸収合併は共同支配企業の形成と判定されます。共同支配企業の形成と判定された吸収合併の共同支配企業(吸収合併存続企業)および共同支配投資企業(吸収合併存続企業の株主となるもの)のそれぞれの個別会計上の会計処理は以下の通りです(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第184項以下参照)。

(共同支配企業の形成判定された吸収合併の会計処理)
企業 処理方法
吸収合併存続会社
(共同支配企業)
吸収合併存続会社(共同支配企業)は、移転された資産及び負債を企業結合日の前日における吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額により計上します。

一方、増加資本の取り扱い(新株を発行した場合)については以下のようになります。

(原則):吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として計上します。また増加すべき払込資本の内訳については、会社法の規定に基づき決定することとなります。

(容認):吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目を祖もまま引き継ぐことができます。

なお株主資本以外の項目(評価換算差額・新株予約権など)の引継ぎについては吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額により引き継ぐこととなります。

合併企業の株主
(共同支配投資企業)
吸収合併存続会社の株主の処理:当該子会社株式の適正な帳簿価額を、そのまま共同支配企業株式(関連会社株式など)へ振替処理します。

吸収合併消滅会社の株主の処理:消滅企業の株主は消滅企業の株式と引き換えに存続企業の株式を取得することとなります。新たに取得した存続企業の株式(共同支配企業株式)の取得原価は、引き換えられた吸収合併消滅企業企業の株式(子会社株式)に係る移転直前の適正な帳簿価額に基づいて算定します。よって個別財務諸表上において交換損益は認識されません。

なお、吸収合併存続会社が新株の発行と合わせて自己株式を処分した場合、消滅企業の株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を存続企業の払込資本の増加額として処理します(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少として処理します)
また株主資本の構成をそのまま引き継いでいる場合には、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除するすることとなります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第186項参照)。

また共同支配企業の形成と判断された吸収合併において吸収合併消滅会社等が保有していた当該会社の自己株式または 吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社株式(合わせて抱き合わせ株式等)を保有していた場合、当該抱合せ株式等の額については、増加する株主資本項目について原則処理を採用する場合、または容認規定を採用する場合の別に以下のように処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-2、84-3項参照)

・原則処理を採用する場合:当該抱合せ株式等の額については、払込資本から減額する
・容認規定を採用する場合:当該抱合せ株式等の額については、その他資本剰余金から減額する

(具体例-共同支配企業の形成と判定された吸収合併の個別上の仕訳)

甲社の100%子会社Aが乙社の100%子会社B社を吸収合併した。A社およびB社の合併前日の貸借対照表は以下の通りである。吸収合併存続会社A社およびそれぞれの親会社甲社、乙社の個別会計上の仕訳を示しなさい。

(A社の貸借対照表)
諸資産 2,000 資本金 1,500
利益剰余金 300
評価・換算差額 200
(B社の貸借対照表)
諸資産 4,500 資本金 3,000
利益剰余金 1,000
評価・換算差額 500

1.A社及びB社の株主である甲社と乙社は合併後のA社を共同で支配する契約を締結しており、当該吸収合併は共同支配企業の形成と判定されたものとする。
2.A社の諸資産の時価は3,000円、A社の企業の時価は4,000円であるものとする。
3.B社の諸資産の時価は5,000円、B社の企業の時価は6,000円であるものとする。
4.A社の合併前の発行済み株式数は2,000株であるものとする。またB社の株主乙社は当該合併によりA社の新株3,000株を受け取るものとする。
5.A社の増加資本はすべて資本金として計上するものとする。
6.甲社におけるA社株式の適正な帳簿価額は1,500円、乙社の保有するB社株式の適正な帳簿価額は3,000円であるものとする。

共同支配企業A社(吸収合併存続企業)の個別上の仕訳
(仕訳-A社の吸収合併時の個別会計上の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 4,500 資本金 4,000
評価・換算差額 500

共同支配企業の形成と判定された吸収合併の個別会計上の処理について、吸収合併存続会社(共同支配企業)A社は、吸収合併消滅会社B社の資産・負債を合併期日の前日の適正な帳簿価額により受け入れ、株主資本についてはこれを払込資本(資本金または資本剰余金)の増加として処理します(本問では資本金の増加として処理しています)。
なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目をそのまま引き継ぐこともできます(本問であれば、B社の合併直前の利益剰余金1,000円をそのまま引き継ぐこともできます)。
また消滅会社の株主資本以外の項目(評価・換算差額等など)がある場合については、これを適正な帳簿価額(本問であれば500円で)を引き継ぐことになります。

共同支配投資企業甲社(存続企業の株主)の個別上の仕訳
(仕訳-甲社の吸収合併時の個別会計上の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
関連会社株式
(共同支配企業株式)
1,500 子会社株式 1,500

吸収合併存続会社の株主であった甲社の個別上の会計処理は子会社であったA社株式の帳簿価額1,500円を子会社株式から共同支配企業株式(関連会社株式など)へ振替処理します。

共同支配投資企業乙社(消滅企業の株主)の個別上の仕訳
(仕訳-乙社の吸収合併時の個別会計上の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
関連会社株式
(共同支配企業株式)
3,000 子会社株式 3,000

吸収合併消滅会社の株主であった乙社の個別上会計処理も子会社であったB社株式の帳簿価額3,000円を子会社株式から共同支配企業株式(関連会社株式など)へ振替処理します(上記設例は企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針設例18をもとに、一部を改変し、それぞれの数値に関する解説を加筆して作成しています。詳細は設例18も合わせてご参照ください)。

(関連項目)
吸収合併の仕訳の基礎(企業結合会計)
逆取得と判定された吸収合併の仕訳の基礎(個別財務諸表)

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