株式移転の仕訳の基礎(個別財務諸表上の処理)

株式移転とは、一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(会社法第2条32参照)。

株式移転によって、株式移転に参加した既存の株式会社の株主は、保有する株式と交換に新たに設立される株式会社を取得します。その結果、新たに設立される株式会社は、株式移転に参加した既存の株式会社の株式のすべてを取得し、既存の株式会社を完全子会社、新たに設立される株式会社を完全親会社する持ち株関係が成立することになります。

取得と判定された株式移転の個別財務諸表上の処理については、まず株式移転完全子会社のうちいずれが取得企業かを決定することになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第120項参照)。
株式移転設立完全親会社(新設会社)は、受け入れた株式移転完全子会社株式(取得企業株式及び被取得企業株式)の取得原価を、それぞれ次のように算定し、これを『子会社株式』勘定などを使って計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第121項以下参照)。

(株式移転完全子会社株式の取得原価)
株式移転完全子会社
(取得企業)
原則として、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて取得原価を算定します。

なお、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日に算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することもできます。

株式移転完全子会社
(被取得企業)
被取得企業株式の取得原価については、取得の対価に付随費用を加算して算定するものとします。

ただし、取得の対価となる財の時価は、株式移転完全子会社(被取得企業)の株主が株式移転設立完全親会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式移転完全子会社(取得企業)の株式を、株式移転完全子会社(取得企業)が交付したものとみなして算定することになります。

株式移転設立完全親会社は上記の取得原価をもとに株式移転完全子会社株式を『子会社株式』などとして資産計上します。また株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金)とし、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定することになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第122項参照)。

たとえば、株式移転に伴って株主移転設立完全親会社が取得した株式交換完全子会社A(取得企業)株主資本の簿価が1,000円、株式交換完全子会社B(被取得企業)の取得の対価の額が500円であり、これをすべて資本金とした場合の株式移転設立完全親会社の仕訳は以下のようになります。

(仕訳-株式移転設立完全親会社の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
子会社株式
(A社株式)
1,000 資本金 1,500
子会社株式
(B社株式)
500

いっぽう、株式交換完全子会社にとっては資産の移動などはありませんので個別財務諸表における仕訳は必要はありません(株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合や社債を承継する場合などの取り扱いについては企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第123-2、404-2項等参照)。

(具体例-株式移転の個別上の仕訳)

A社(取得企業)とB社(被取得企業)株式移転(交換比率は 1:0.5)により株式移転設立完全親会社C社を設立した。A社およびB社の株式移転日前日の貸借対照表は以下の通りである。C社の株式移転時における個別上の仕訳を示しなさい。

(A社の貸借対照表)
諸資産 8,000 諸負債 2,000
資本金 4,000
利益剰余金 2,000
(B社の貸借対照表)
諸資産 5,000 諸負債 2,000
資本金 1,800
利益剰余金 1,200

1.A社およびB社の発行済み株式はそれぞれ100株である。
2.A社の株主には、A社株式1株当たりC社株式が1株交付された。また、B社の株主には、B社株式1株当たりC社株式0.5株が交付されるものとする。なお、株式移転日のA社の株価(@70円)により計算した B社株主に交付した株式の時価総額は3,500円(=@70円×100株×0.5)であったものとする。
3.A社の増加資本はすべて資本金として計上するものとする。

(計算過程-A社株式の取得原価)
A社株式(取得企業株式)の取得原価:株式移転日前日におけるA社株主資本の帳簿価額(資本金4,000円+利益剰余金2,000円)=6,000円

(計算過程-B社株式の取得原価)
B社株式(被取得企業株式)取得原価は、B社の株主がC社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数のA社株式をA社が交付したとみなして算定します。

B社株主のC社対する議決権比率:B社株主の株式数100株×0.5/C社の発行株式数(100株×1+100 株×0.5)=33.3%
B社株式の取得原価:(C社発行株式数150株×33.3%)×A社株式の時価@70円=3,500円

なおC社の増加すべき株主資本は(A社株式の取得原価6,000円+B社株式の取得原価3,500円)=9,500円

(仕訳-C社の株式移転時の個別会計上の仕訳)
借方 金額 貸方 金額
子会社株式
(A社株式)
6,000 資本金 9,500
子会社株式
(B社株式)
3,500

(関連項目)
株式交換の仕訳の基礎(個別財務諸表上の処理)
吸収合併の仕訳の基礎(企業結合会計)

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