一般債権に対する貸倒引当金の算定(貸倒実績率法)
売掛金や貸付金などの債権に対し貸倒引当金を設定する場合、債務者の財政状態及び経営成績などに応じて債権を、一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等に区分し、それぞれの区分に応じた方法で貸倒引当金を算定することになります。
このうち一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいい、以下の貸倒実績率法により貸倒引当金を設定するものとされています(金融商品に関する会計基準 第28項(1)参照)。
貸倒実績率法 | 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する方法をいいます。 |
なお、同種とは売掛金・受取手形・貸付金・未収金等の別における同一のものをいい、また、同類とは同種よりもより大きな区分、すなわち、営業債権と営業外債権の別における同一のもののほか、短期と長期の期間別区分をいいます(金融商品会計に関する実務指針第110項参照)。
貸倒実績率の算定
貸倒実績率は、ある期における債権残高を分母とし、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定する。
貸倒実績率=x2年度以降の貸倒損失額÷x1年度末の債権残高 |
上記算式の分子の期間については、一般には債権の平均回収期間が妥当となります。ただし売掛金など、回収期間が1年を下回る場合には1年とします。
なお、当期末に保有する債権について適用する貸倒実績率を算定するに当たっては、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3算定期間に係る貸倒実績率の平均値によります(金融商品会計に関する実務指針第110項参照)。
貸倒実績率法における貸倒引当金は以下の算式で算定します。
貸倒引当金=債権残高×貸倒実績率 |
(具体例-貸倒実績率法・回収期間1年超の場合)
貸付金(一般債権)の平均回収期間は3年であり、回収及び貸倒実績は以下の通りである。過去3年間の貸倒実績率の平均値を算出し、x6年度末における貸倒引当金を算定しなさい。
x1年度 | x2年度 | x3年度 | x4年度 | x5年度 | x6年度 | 当初元本 損失累計 |
|
債権残高 貸倒実績 |
4,500 - |
3,000 20 |
1,500 15 |
- 10 |
- - |
- - |
4,500 45 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
1,800 - |
1,200 - |
600 7 |
- 12 |
- - |
1,800 19 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
2,100 - |
1,400 - |
700 9 |
- 15 |
2,100 24 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
- - |
2,400 - |
1,600 - |
800 10 |
2,400 10 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
- - |
- - |
2,700 - |
1,800 - |
2,700 - |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
- - |
- - |
- - |
3,000 - |
3,000 - |
合計残高 当期貸倒 |
4,500 - |
4,800 20 |
4,800 15 |
4,400 17 |
5,000 21 |
5,600 25 |
平均回収期間が1年超の場合、貸倒実績率の算定方法は,
(1)発生年度ごとの貸倒実績率の平均値による方法
(2)合計残高ごとの貸倒実績率の平均による方法
との2通りの方法があります。
(計算過程-発生年度ごとの貸倒実績率の平均値による方法)
この方法は、当期末に残高のある債権の当初元本に、当期に適用する貸倒実績率を乗じて貸倒損失総発生額を見積もり、そこから当期発生額を控除して貸倒引当金計上額を算定する方法です。
まず、基準となる各算定期間に係る貸倒実績率を算定します。ここでは、3年間の平均実積率をもとめるため、x6年末時点で平均回収期間を過ぎた3年分(x1年からx3年まで)の貸倒実績率を算出します。
・ x1年発生年度債権の貸倒実績率=45÷4,500=1.00%
・ x2年発生年度債権の貸倒実績率=19÷1,800=1.06%
・ x3年発生年度債権の貸倒実績率=24÷2,100=1.14%
上記の3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して、x6年末の貸倒見積高の算定に適用する貸倒実績率を算定します。
(1.00+1.06+1.14)÷3=1.07%
当期の貸倒引当金計上額を算定します。x6年末において残高があるのは、x4からx6年までに発生した債権ですので、それらの合計に貸倒実績率を乗じ、当期までに発生した貸倒額を控除します。
(2,400+2,700+3,000)×1.07%-10=76
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 76 | 貸倒引当金 | 76 |
(計算過程-合計残高ごとの貸倒実績率の平均による方法)
当期末の債権の期末残高に、当期に適用する貸倒実績率を乗じて貸倒損失発生額を見積もり、貸倒引当金計上額を算定します。ここでは、3年間の平均実積率をもとめるため、x6年末時点で平均回収期間を過ぎた3年分(x1年からx3年まで)の貸倒実績率を算出しますが、分子の貸倒実績額が債権の発生から回収期間経過までに発生した貸倒額全額であることがポイントとなります(特定年度の債権の合計残高で、特定年度以降で債権の平均回収期間経過までに発生した貸倒の合計額を割り算します)。
・ x1年発生年度債権の貸倒実績率=(20+15+17)÷4,500=1.16%
・ x2年発生年度債権の貸倒実績率=(15+17+21)÷4,800=1.10%
・ x3年発生年度債権の貸倒実績率=(17+21+25)÷4,800=1.31%
上記の3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して、x6年末の貸倒見積高の算定に適用する貸倒実績率を算定します。
(1.16+1.10+1.31)÷3=1.19%
当期末の債権の期末残高に,算出した実積率を乗じて当期の貸倒引当金計上額を算定します。
5,600×1.19%=67
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 67 | 貸倒引当金 | 67 |
(具体例-貸倒実績率法・回収期間1未満の場合)
売掛金(一般債権)の平均回収期間は1年未満であり、回収及び貸倒実績は以下の通りである。過去3年間の貸倒実績率の平均値を算出し、x4年度末における貸倒引当金を算定しなさい。
x1年度 | x2年度 | x3年度 | x4年度 | 当初元本 損失累計 |
|
債権残高 貸倒実績 |
5,500 - |
- 20 |
- - |
- - |
5,500 20 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
6,000 - |
- 10 |
- - |
6,000 10 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
6,500 - |
- 30 |
6,500 30 |
債権残高 貸倒実績 |
- - |
- - |
- - |
7,000 - |
7,000 - |
合計残高 当期貸倒 |
5,500 - |
6,000 20 |
6,500 10 |
7,000 30 |
(計算過程-回収期間1年未満の場合)
当期末の債権の期末残高に、当期に適用する貸倒実績率を乗じて貸倒損失発生額を見積もり、貸倒引当金計上額を算定します。ここでは、3年間の平均実積率をもとめるため、x4年末時点で貸倒実績のわかる3年分(x1年からx3年まで)の貸倒実績率を算出します。
・ x1年発生年度債権の貸倒実績率=20÷5,500=0.36%
・ x2年発生年度債権の貸倒実績率=10÷6,000=0.17%
・ x3年発生年度債権の貸倒実績率=30÷6,500=0.46%
上記の3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して、x4年末の貸倒見積高の算定に適用する貸倒実績率を算定します。
(0.36+0.17+0.46)÷3=0.33%
よって当期の貸倒引当金計上額は以下の通りになります。
7,000×0.33%=23
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 23 | 貸倒引当金 | 23 |
上記設例の数値は金融商品会計に関する実務指針設例12の数値を使用しています。
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