在外支店の財務諸表項目の換算(収益費用の特例・AR)
支店が海外にある場合において、在外支店の財務諸表項目がドルやユーロなどの外貨で表示されている場合、本支店合併財務諸表を作成するにあたり在外支店の財務諸表項目(決算整理後残高試算表)を外貨建てから円建てに換算する必要があります。
在外支店の財務諸表項目の換算方法については、原則として本店と同様の方法によります。ただし以下の特例を採用することも認められています(外貨建取引等会計処理基準二参照)。
特例1 (収益費用) |
収益及び費用(収益性負債の収益化額及び費用性資産の費用化額を除く)の換算については期中平均レート(AR)により換算することができます。 | 当ページ下記参照 |
特例2 (資産負債) |
非貨幣性項目の額に重要性がない場合には、すべての貸借対照表項目(本店勘定・支店勘定は除く)についてCRにより換算することができます。またこの場合においては、損益項目についてもCRにより換算することもできます。 | 資産負債の換算特例 |
収益費用の換算は、原則法(本店と同様の方法)ではそれぞれの取引発生時のレート(HR)を使用して換算しますが、より簡便に一括して期中平均レート(AR)を使用して換算することもできます。ただし、この場合であっても以下の項目についてはHRを使用して記帳するなど注意が必要となります。
1.収益性負債の収益化額及び費用性資産の費用化額:収益性負債の収益化額とは前受金や前受収益などの収益振替額をいい、費用性資産の費用化額とは固定資産の減価償却額などをいいます。これらの項目は負債や資産の計上時のレート(HR)をもって収益費用の円貨額を算定します。
2.本店仕入・本店売上勘定:これらの勘定は本店の『支店売上』勘定や『支店仕入』勘定の円貨額をそのまま使用します(相殺対象となるため)。 |
なお、収益費用の換算で使用される期中平均レートは、当該収益及び費用が帰属する月又は半期等を算定期間とする平均相場を用いることもできます(外貨建取引等会計処理基準注解・注12参照)。
では、具体的な数値例は下記具体例をもとにご参照ください(換算手順や当期純利益の算定手順は在外支店の財務諸表項目の換算手順(順番)ページも合わせてご参照ください)
(具体例-支店の財務諸表項目の換算・収益費用のAR特例)
当社のアメリカ支店のドル建て決算整理後残高試算表は以下の通りである。資料をもとに、アメリカ支店の円建ての貸借対照表及び損益計算書を作成しなさい(なお、収益費用の換算については期中平均レート(AR)を使用するものとする)。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 2,000 | 本店 | 3,000 |
繰越商品 | 3,000 | - | - |
仕入 | 4,000 | 売上 | 16,000 |
本店仕入 | 10,000 | - | - |
(適用レート)
・期首商品棚卸高は0ドルであり、また当期の外部仕入れは一括して行われ、外部仕入時のレートは1ドル=110円(HR)あった(なお期末商品在庫はすべて外部仕入商品である)。
・売上は一括して行われ、売上時のレートは1ドル=108円(HR)であった。
・本店における支店勘定の残高は303,000円、支店売上勘定の残高は990,000円であった。
・当期の期中平均レート(AR)は105円であった。
・当期期末のレート(CR)は100円であった。
1.貸借対照表の作成
在外支店の財務諸表項目の換算手順としては、先に貸借対照表項目の換算を行います。この設問では、資産負債は原則的な換算方法(本店と同様の方法)によることになりますので、原則として貨幣項目はCR、非貨幣項目はHRで換算を行います(本店勘定は、のちに本店の支店勘定と相殺するため、金額を一致させておくことが必要です)。
ただし、収益費用は期中平均レート(AR)での換算しますので、繰越商品(仕入勘定より振り替えられる)についてはARで換算することになりますので注意が必要です。
(計算過程)
現金:2,000ドル×100円=200,000円
繰越商品:3,000ドル×105円=315,000円
本店:303,000円(本店の支店勘定と同額)
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 200,000 | 本店 | 303,000 |
繰越商品 | 315,000 | 当期純利益 | 212,000 |
在外支店の円建て貸借対照表の貸借差額より、当期の円建ての当期純利益212,000円(=200,000円+315,000円-303,000円)が算定されます。貸借対照表より算定された円建て当期純利益はそのまま損益計算書に移し、これを損益計算書上の当期純利益とします。
2.損益計算書の作成
次に損益計算書項目の換算を行います。換算方法は収益費用の換算特例として期中平均レート(AR)を適用して換算します(だだし本店仕入勘定は、のちに本店の支店売上勘定と相殺するため、金額を一致させておくことが必要です)。
(計算過程)
仕入(売上原価):4,000ドル×105円=420,000円(期首商品がある場合、期首商品は前期のARで円換算後に売上原価を算定してください)。
売上:16,000ドル×105円=1,680,000円
本店仕入:990,000円(本店の支店売上勘定と同額)
当期純利益:212,000円(円建て貸借対照表の当期純利益と同額)
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
売上原価 | 420,000 | 売上 | 1,680,000 |
本店仕入 | 990,000 | - | - |
為替差損益 | 58,000 | - | - |
当期純利益 | 212,000 | - | - |
在外支店の円建て損益計算書の当期純利益は、円建ての貸借対照表から移してきますので貸借対照表の当期純利益と同額です。また売上や仕入などの外貨建取引はそれぞれ期中平均レート(AR)等を使って換算します。この結果生じた貸借差額(上記の場合は58,000円)は為替差損益として処理します。
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