ヘッジ取引とヘッジ会計

1.ヘッジ取引とは

ヘッジ取引とは、資産や負債に係る相場変動リスクを回避する事などを目的としてデリバティブを利用する取引をいいます。
たとえば、保有する株式の時価下落リスクを回避するしたい場合、株式の先物を売り建てることなどにより、保有株の時価下落による損失を、先物利益によって相殺し、カバーすることが可能となります。この時、リスクを回避したい資産や負債を『ヘッジ対象』、手段としてのデリバティブを『ヘッジ手段』といいます。
なお、ヘッジ取引には以下の2つの種類があります(金融商品会計に関する実務指針第141項参照)

(ヘッジ取引の種類)
公正価格ヘッジ 相場変動を相殺するヘッジ取引のことです。これは、ヘッジ対象が相場変動リスクにさらされており、かつ、ヘッジ対象の相場変動とヘッジ手段の相場変動との間に密接な経済的相関関係があり、ヘッジ手段がヘッジ対象の相場変動リスクを減少させる効果をもつものをいいます。
キャッシュ・フロー・ヘッジ キャッシュ・フローを固定するヘッジ取引のことです。これは、ヘッジ対象がキャッシュ・フロー変動リスクにさらされており、かつ、ヘッジ対象のキャッシュ・フロー変動とヘッジ手段のキャッシュ・フロー変動との間に密接な経済的相関関係があり、ヘッジ手段がヘッジ対象のキャッシュ・フローの変動リスクを減少させる効果をもつものをいいます。

2.ヘッジ会計とは

上記の通り、ヘッジ取引とは、株式や債券など特定の資産負債(ヘッジ対象)の相場変動損益を、先物などのデリバティブ(ヘッジ手段)の損益で相殺することなどを目的とした取引をいいますが、この時、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益とが同一の会計期間に認識されなければ、ヘッジの効果を財務諸表で適切に表すことができません。ヘッジ手段であるデリバティブは時価評価を原則としていますが、ヘッジ対象が原則的評価方法では時価評価の対象とならない場合などは特別な会計的手法が必要となります。そのための手段がヘッジ会計です。ヘッジ会計とは、金融商品会計基準において以下のように定義されます。

ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいう(金融商品会計に関する会計基準29項)。

3.ヘッジ会計の適用要件

ヘッジ取引についてヘッジ会計が適用されるための要件としては、ヘッジ対象が相場変動等による損失の可能性にさらされており、ヘッジ対象とヘッジ手段とのそれぞれに生じる損益が互いに相殺されるか又はヘッジ手段によりヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される関係になければなりません。なお、ヘッジ対象が複数の資産又は負債から構成されている場合は、個々の資産又は負債が共通の相場変動等による損失の可能性にさらされており、かつ、その相場変動等に対して同様に反応することが予想されるものであることが必要です(金融商品会計に関する会計基準 注11参照)。
また、企業のリスク管理等に関して以下の要件をともに満たすことが必要です(金融商品会計に関する会計基準31項参照)。

(1) ヘッジ取引時において、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められること

・当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
・企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること

(2) ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること

4.ヘッジ会計の方法

ヘッジ取引において、ヘッジ手段となるデリバティブ取引は原則として時価評価となります(金融商品に関する会計基準25項参照)。一方、ヘッジ対象についても時価評価の対象となってるのであれば特殊な会計処理は必要ないことになります。問題となるのはヘッジ対象が時価評価の対象となっていない場合における損益の認識時点のズレの調整についての問題です。この調整法としてヘッジ会計には、以下のように繰延ヘッジと時価ヘッジと2つの方法があります。

(ヘッジ会計の種類)
繰延ヘッジ 時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法です。
時価ヘッジ ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する方法です。

上記の方法のうち、繰延ヘッジが原則的方法となります。
また、複数の資産又は負債から構成されているヘッジ対象をヘッジしている場合には、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、損益が認識された個々の資産又は負債に合理的な方法により配分することになります(金融商品会計に関する会計基準 注13参照)。

5.ヘッジ会計の中止

へッジ会計の要件が充たされなくなったときには、ヘッジ会計の要件が充たされていた間のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで引き続き繰り延べることになります(ヘッジ会計の中止)。
ただし、繰り延べられたヘッジ手段に係る損益又は評価差額について、ヘッジ対象に係る含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積り、当期の損失として処理しなければなりません(金融商品会計に関する会計基準33項参照)。
へッジ会計の要件が充たされなくなる場合として以下のケースがあります(金融商品会計に関する実務指針180項)。

(1)当該ヘッジ関係が企業のヘッジ有効性の評価基準を満たさなくなった。
(2)ヘッジ手段の消滅(満期、売却、終了又は行使などにより消滅)。

6.ヘッジ会計の終了

ヘッジ会計は、ヘッジ対象が消滅したときに終了し、繰り延べられているヘッジ手段に係る損益又は評価差額は当期の損益として処理しなければなりません。また、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときにおいても同様に処理することになります(金融商品会計に関する会計基準34項参照)。

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