子会社株式を段階取得した場合の連結手続きの流れ

ある会社が他の会社の発行する株式の過半数を取得して子会社にする場合、過半数の株式を一括して取得するケースもあれば、何回かに分けて段階的に取得するケースもあります

例えばある会社が他の会社の株式の51%を一括して取得することもあれば、まずは10%、その後さらに41%を取得してトータル51%の株式を取得するような場合もあります。
このように複数回にわたって株式を取得することにより子会社の支配を獲得することを段階取得といいます。

段階取得の場合の支配獲得日における連結修正仕訳については、一括取得の場合と比較して次の点に注意する必要があります。

1.子会社の純資産と相殺消去する親会社の投資(子会社株式)は段階取得したすべての株式を支配獲得時の時価へ修正する

2.子会社株式の評価替えによって生じた差額は支配獲得時の損益『段階取得に係る差益』または『段階取得に係る差損』として処理する

資本連結の手続きにおいて、親会社の子会社に対する投資(親会社の貸借対照表における『子会社株式』)と子会社の純資産とを相殺することになりますが、この際、親会社の子会社に対する投資の金額は、支配獲得日の時価によることが求められます(連結財務諸表に関する会計基準 第23項(1)参照)。したがって親会社が支配獲得日以前に保有していた子会社株式を支配獲得時の時価へ修正する仕訳が必要となります。

この評価替えによって生じた差額については、連結会計上は当期の損益『段階取得に係る損益』(連結損益計算書の特別損益項目)として処理することになります(企業結合に関する会計基準 第25項(2)参照)。

数値例-段階取得の場合の連結修正仕訳の基本形

×1年12月31日に甲会社が乙会社(発行済株式数は100株)の発行した株式10株を10,000円(1株当たり1,000円)で取得したのち、さらに×2年12月31日に追加で乙社の発行した株式の50株を60,000円(1株当たり1,200円)で取得して甲社は乙社の支配を獲得して子会社とした。支配を獲得した日(×2年12月31日)における必要な連結修正仕訳を示して支配獲得日における連結貸借対照表を作成しなさい。
なお×2年12月31日における甲乙両社の個別財務諸表は以下のようなものであったとする(税効果会計は適用しない)。

甲社の個別貸借対照表
諸資産 400,000 諸負債 250,000
乙会社株式 70,000 資本金 220,000
乙社の個別貸借対照表
諸資産 100,000 資本金 100,000

なお、支配獲得日における乙社の諸資産の時価は110,000円であるものとする。

1.子会社の資産・負債の評価替え
子会社となる乙社の諸資産について、簿価が100,000円となっていますが支配獲得日における時価は110,000となっており、時価と簿価とが異なっているため評価替えのための仕訳を行います。評価替えのための仕訳については時価110,000と簿価100,000円との差額10,000円を諸資産に追加で計上することにより、乙社の諸資産の帳簿価額を100,000円から110,000円へと修正します(全面時価評価法:子会社の保有する資産の100%を時価評価の対象とします)。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
諸資産 10,000 評価差額 10,000

上記の評価替えの仕訳により、子会社である乙社の貸借対照表は以下のようになります(評価差額が子会社の純資産として処理します)。

乙社の個別貸借対照表(評価替え後)
諸資産 110,000 資本金 100,000
評価差額 10,000

2.段階取得した子会社株式の評価替え
親会社が子会社の支配を獲得した場合において、連結貸借対照表を作成する際には子会社の純資産と親会社の投資とを相殺消去することになりますが、子会社の株式を段階的に取得することによって支配を獲得した場合には、子会社の純資産と相殺消去する親会社の投資(子会社株式)は段階取得したすべての株式を支配獲得時の時価へ修正する必要があります。

×2年12月31日に取得した50株については、時価と簿価とはすでに一致していますが(1株当たり1,200円)、×1年12月31日に取得した10株1株当たり1,000円)については簿価と時価とが一致していませんので、支配獲得時である×2年12月31日の時価へ評価替えすることが必要となります。
子会社株式の評価替えのための仕訳については、段階取得した子会社株式の支配獲得時における時価と簿価との差額を算定し、これを子会社株式としてに追加で計上することにより、子会社株式の帳簿価額を支配獲得時の時価へと修正します

(支配獲得時の時価@1,200円-最初に取得した時の時価@1,000円)×段階取得した株式数10株=2,000円

なお、子会社株式の評価替えによって生じた差額は支配獲得時の損益『段階取得に係る差益』または『段階取得に係る差損』として処理します。
ここでは帳簿価額を2,000円増額させることとなりますので『段階取得に係る差益』として処理します(子会社株式の相手勘定が貸方の場合は差益、借方の場合には差損となります)。

(仕訳)
借方 金額 貸方 金額
子会社株式 2,000 段階取得により差益 2,000

なお、『段階取得に係る差益』および『段階取得に係る差損』は損益計算書の特別損益項目であり、支配獲得時における連結貸借対照表においては『利益剰余金』に加減します。
上記の仕訳により、子会社の純資産と相殺消去される子会社株式の価額は以下のようになります。

子会社株式の価額:10,000円(×1年取得の10株)+60,000円(×2年取得の50株)+2,000円(×1年取得の10株の評価替え分)=72,000円

これは×2年12月31日に保有する子会社株式60株を同日の時価(1株当たり1,200円)ですべて取得した場合の金額と一致します。

4.投資と資本との相殺消去
親会社の子会社に対する投資と子会社の純資産とは、これを一つの企業集団としてみた場合、企業集団内部の資金移動にすぎません。したがって、連結財務諸表を作成するにあたり親会社の子会社に対する投資(甲社の所有している評価替え後の子会社株式72,000円)と子会社の純資産(乙社の資本金100,000円および評価差額10,000円)とを相殺することになります。

ただし、親会社の甲社が保有する子会社株式は、子会社である乙社が発行したすべての株式のうちの60%分だけですので、甲社の保有する乙社株式(72,000円)と相殺する乙社の純資産は、乙社純資産110,000円のうちの甲社の持分にあたる60%分、つまり66,000円(=110,000円×60%)のみとなり、のこりの親会社の持分以外に相当する金額を子会社の純資産から『非支配株主持分』という勘定科目へと振り替えます。

(仕訳-親会社の保有する子会社株主と子会社の純資産のうちの親会社持分との相殺)
借方 金額 貸方 金額
資本金(乙社) 60,000 乙社株式 72,000
評価差額 6,000
のれん 6,000

乙社の資本金のうち親会社の持分に相当する金額:乙社の資本金100,000円×親会社持分60%=60,000円
乙社の評価差額のうち親会社の持分に相当する金額:乙社の評価差額10,000円×親会社持分60%=6,000円

(仕訳-親会社持分以外の部分の非支配株主持分への振り替え)
借方 金額 貸方 金額
資本金 40,000 非支配株主持分 44,000
評価差額 4,000

乙社の資本金のうち非支配株主持分に相当する金額:乙社の資本金100,000円×親会社持分40%=40,000円
乙社の評価差額のうち親会社の持分に相当する金額:乙社の評価差額10,000円×親会社持分40%=4,000円

5.連結貸借対照表の作成
最後に支配獲得日の連結貸借対照表を作成します。作成方法は甲社と乙社の貸借対照表とを単純合算し、これに上記の連結修正仕訳を加味すればよいことになります。
なお、段階取得にかかる差益(または段階取得にかかる差損)については、特別損益となる項目であり、損益項目は貸借対照表上は利益剰余金に加減することになります(損益項目は貸借対照表上は利益剰余金へ集計されるため)

支配獲得日の連結貸借対照表
諸資産 510,000 諸負債 250,000
のれん 6,000 資本金 220,000
利益剰余金 2,000
非支配株主持分 44,000

上記の連結貸借対照表において『非支配株主持分』を『資本金』の下に表示しておりますが、非支配株主持分は連結貸借対照表の純資産の部に計上されます。

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