2種類以上の事業を営む場合の仕入税額控除の算定(簡易課税制度)

1種類の事業を営む場合の仕入税額控除の計算

消費税の簡易課税制度を選択した事業者においては、仕入税額控除の算定は、課税標準額に対する消費税額に各事業区分に応じたみなし仕入率を乗じて算定します(各事業におけるみなし仕入率の詳細や簡易課税制度の基礎についてはみなし仕入率の一覧と仕入税額控除の算定(簡易課税制度)をご参照ください)。

(1種類の事業を営む場合の仕入税額控除の算定)

仕入税額控除額=A×みなし仕入率

A=課税標準額に対する消費税額-売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税

2種類以上の事業を営む場合の仕入税額控除の計算

事業者の営む事業が単一の事業区分に属するものだけである場合は上記の算式により仕入税額控除を算定することができるのですが、たとえば事業者が卸売業(第1種事業)と小売業(第2種事業)を共に行っている場合など、2種類以上の事業区分にわたって事業を行っている場合は、それぞれの事業区分に係る消費税額を加重平均するなど、一定の調整が必要となります。
事業者が第1種事業から第6種事業までのうち2種類以上の事業を営む事業の場合の仕入税額控除の計算は、原則として、以下の算式によって算定します。

(2種類の事業を営む場合の仕入税額控除の算定-原則法)

仕入税額控除額=A×B

A=課税標準額に対する消費税額-売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税
B=(a×90%+b×80%+C×70%+d×60%+e×50%+f×40%)÷(a+b+c+d+e+f)

a:第1種事業に係る消費税額
b:第2種事業に係る消費税額
c:第3種事業に係る消費税額
d:第4種事業に係る消費税額
e:第5種事業に係る消費税額
f:第6種事業に係る消費税額

上記の原則法では、課税売上に対する消費税額を各事業区分の売上に係る消費税額で加重平均したみなし仕入率を乗じることによって仕入税額控除の額を算定します。
ただし、以下のいずれにも該当しない場合には簡便法によって仕入税額控除を算定することもできます。

1.貸倒回収額がある場合
2.売上対価の返還等がある場合で、各種事業に係る消費税額からそれぞれの事業の売上対価の返還等に係る消費税額を控除して控除しきれない場合

(2種類の事業を営む場合の仕入税額控除の算定-簡便法)

仕入税額控除額=a×90%+b×80%+C×70%+d×60%+e×50%+f×40%

a:第1種事業に係る消費税額
b:第2種事業に係る消費税額
c:第3種事業に係る消費税額
d:第4種事業に係る消費税額
e:第5種事業に係る消費税額
f:第6種事業に係る消費税額

特例計算について

2種類以上の事業を営む場合において、1種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用することができます。
また、3種類以上の事業を営む場合で、特定の2種類の事業の課税売上高の合計額が全体の課税売上高の75%以上を占める場合においては、その2種類の事業のうち、みなし仕入率の高い方の事業に係る課税売上高については、そのみなし仕入率を適用し、それ以外のすべての課税売上高については、その2種類の事業のうち低い方のみなし仕入率を適用して仕入税額控除を算定することができます。
(たとえば、第1種事業の課税売上高が45%、第2種事業の課税売上高が45%、第5種事業の課税売上高10%の場合、第1種と第2種事業の課税売上高で75%以上となるため、みなし仕入れ率の高い第1種事業に係る課税売上高については第1種事業のみなし仕入率90%を適用し、第1種事業以外のすべての課税売上高については、第2種事業のみなし仕入率80%を適用し仕入税額控除を算定することができることになります)。

なお、2種類以上の事業を営む事業者が課税売上げを事業ごとに区分していない場合には、この区分をしていない部分については、その区分していない事業のうち一番低いみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算します。

(具体例1-簡易課税・2種類以上の事業を営む事業者の場合)

簡易課税を選択したC社の仕入税額控除額を算定しなさい(消費税率は8%として計算すること)。なお、C社は卸売業と小売業とを営む事業者であり、それぞれの売上高は以下のようになります

卸売業の当課税期間の課税売上高は7,000,000円
小売業の当課税期間の課税売上高は3,000,000円

※ 卸売業(第1種事業)のみなし仕入率は90%、小売業(第2種事業)のみなし仕入率は80%として算定すること。

(解答)
卸売業に係る消費税額:課税売上高7,000,000円×8%=560,000円
小売業に係る消費税額:課税売上高3,000,000円×8%=240,000円

∴仕入税額控除額:卸売業に係る消費税額560,000円×90%+小売業に係る消費税額240,000円×80%=696,000

(具体例2-簡易課税・2種類以上の事業を営む事業者の場合)

簡易課税を選択したD社の仕入税額控除額を算定しなさい(消費税率は8%として計算すること)。なお、D社は卸売業と小売業とを営む事業者であり、それぞれの売上高は以下のようになります

卸売業の当課税期間の課税売上高は9,000,000円
小売業の当課税期間の課税売上高は1,000,000円

※ 卸売業(第1種事業)のみなし仕入率は90%、小売業(第2種事業)のみなし仕入率は80%として算定すること。

(解答)
卸売業に係る課税売上高の割合:卸売業に係る課税売上高9,000,000円/(卸売業に係る課税売上高9,000,000円+小売業に係る課税売上高1,000,000円)=90%

卸売業に係る課税売上高が全体の課税売上高の90%となっています。2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用することができます(特例計算)。当社では最もみなし仕入率の高い卸売業がこの条件にあたるため、特例計算を適用し、課税売上高全体に卸売業のみなし仕入率90%を適用する方が有利となりますので、特例計算を使用します。

仕入税額控除額:(卸売業に係る課税売上高9,000,000円+小売業に係る課税売上高1,000,000円)×消費税率8%×卸売業のみなし仕入率90%=720,000円

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