試用販売(手許商品区分法)の会計処理

顧客に商品を試用してもらい、試用期間経過後等に商品を購入するかどうか決めてもらう販売形態を試用販売といいます。試用販売の会計処理のポイントは、商品を発送した時と顧客が買い取りの意思表示をしたときの2点になりますが、試用販売の会計処理には2つの方法があり、それぞれの処理方法は以下の通りです。

(試用販売の会計処理)
対照勘定法 商品を試用してもらうため発送した時、『試用販売契約』『試用仮売上』の対照勘定を使用し、売価で備忘記録をおこないます。 対照勘定法ページ参照
手許商品区分法 商品を試用してもらうため発送した時、発送した商品と手許の商品とを区分するために、発送した商品を原価で、『仕入』勘定の貸方から『試用品』勘定の借方へ振替を行います。 当ページ下記参照

上記のうち、いずれの記帳方法であったとしても試用販売においては、顧客が買い取りの意思表示をしたときに収益計上を行います(企業会計原則注解・注6参照)。

手許商品区分法において、顧客の買い取りの意思表示があったときは、『試用品売上』勘定または『売上』を使用して売上収益を計上し、買取の意思表示があった試用品の原価を『試用品』勘定から『仕入』勘定へと振り替えて試用品の原価を売上原価(仕入勘定で集計)に算入することになりますが、この時、買取の意思表示があった試用品原価の振替を、販売の都度に行うその都度法と期末に一括して行う期末一括法とがあります。
なお、買取拒絶の意思表示があり、商品が返送されてきたときは返品時に『試用品』勘定から『仕入』勘定への振替を行います。

(具体例1-試用販売・手許商品区分法(その都度法))

1.当社は取引先に商品を試用してもらい、購入の判断をしてもらう試用販売を行っている。本日、商品800円(売価1,000円)の商品を試用のために得意先に発送した。当社は試用販売に関し手許商品区分法を採用し、買取の意思表示があったものに関してはその都度、仕入勘定への振替を行っている(その都度法)。本日の仕訳を示しなさい。

(仕訳・発送時)
借方 金額 貸方 金額
試用品 800 仕入 1,000

手許商品区分法では、発送時には原価を使って『仕入』勘定の貸方から『試用品』勘定の借方への振替を行います。

2.上記の商品のうち、商品640円(売価800円)について得意先より買取の意思表示があった。

(仕訳・買取意思表示時)
借方 金額 貸方 金額
売掛金 800 試用品売上 800
仕入 640 試用品 640

手許商品区分法のうち、その都度法と呼ばれる方法では、顧客より買取の意思表示があった試用品の原価について、その都度、『試用品』勘定から『仕入』勘定に振り替えることになります。

3.残りの商品160円(売価200円)について、得意先より買取しない旨の意思表示があり、商品が返品されてきた。

(仕訳・返品時)
借方 金額 貸方 金額
仕入 160 試用品 160

買取しない旨の意思表示があり、商品が返品されてきたため、発送時の反対仕訳を行います。

(具体例2-試用販売・手許商品区分法(期末一括法))

1.当社は取引先に商品を試用してもらい、購入の判断をしてもらう試用販売を行っている。本日、商品800円(売価1,000円)の商品を試用のために得意先に発送した。当社は試用販売に関し手許商品区分法を採用し、買取の意思表示があったものに関しては期末に一括して仕入勘定への振替を行っている(期末一括法)。本日の仕訳を示しなさい。

(仕訳・発送時)
借方 金額 貸方 金額
試用品 800 仕入 1,000

発送時の処理はその都度法と期末一括法に違いはありません。

2.上記の商品のうち、商品640円(売価800円)について得意先より買取の意思表示があった。

(仕訳・買取意思表示時)
借方 金額 貸方 金額
売掛金 800 試用品売上 800

買取の意思表示があった試用品の原価については、『試用品』勘定から『仕入』勘定へ振り替え、試用品売上の原価を売上原価に算入しますが、期末一括法においては期末にまとめて振替処理をおこないます。

3.残りの商品160円(売価200円)について、得意先より買取しない旨の意思表示があり、商品が返品されてきた。

(仕訳・返品時)
借方 金額 貸方 金額
仕入 160 試用品 160

買取しない旨の意思表示があり、商品が返品されてきたため、発送時の反対仕訳を行います。

4.本日決算日を迎えた。試用品に関する決算整理を行いなさい。なお当社では期首の試用品残高は存在しない。

(仕訳・決算時)
借方 金額 貸方 金額
仕入 640 試用品 640

期末一括法では、当期に販売した試用販売の商品原価について期中の振替仕訳は行っていません。したがって期末において、当期に販売した試用品の売上原価を『試用品』勘定から『仕入』勘定へ振り替え、仕入勘定にて当期の売上原価を集計します。
なお、上記設例では期首試用品は無いとの設定ですが、期首試用品残高がある場合はこれもまとめて仕入勘定へ振り替えます(下記決算時の処理を参照)。

決算時の処理(手許商品区分法)

手許商品区分法のうち、その都度法で記帳している場合、販売の都度、試用品原価を『仕入』勘定に振り替えており、『試用品』勘定の帳簿残高は現に得意先で試用中の商品の原価のみを表しているため、決算整理において試用品に関する仕訳は原則として必要ありません。

一方、期末一括法で記帳している場合、試用品売上の原価は期末に一括して仕入勘定への振替を行うため、帳簿上(決算整理前残高試算表上)の『試用品』残高は期首試用品原価と当期に送付した試用品の原価の合計となっております。

試用品勘定(前TB)=期首試用品原価+期中送付試用品原価

したがって、期末に仕入勘定において売上原価を集計するために上記の『試用品』勘定の借方残高を『仕入』勘定に振り替え、期末の試用品原価を『仕入』勘定から『試用品』勘定へと振替るための仕訳を行います。

(具体例-期末一括法・決算整理仕訳)

本日決算を迎えた。決算整理前残高試算表の『試用品』勘定の残高は1,000円であり、期首試用品原価は200円であった。また当期の試用品売上は1,200円(原価率は60%)である。試用品に関する決算整理仕訳を示しなさい。

(計算過程)

当期の試用品売上原価は1,200円×60%=720円
期末試用品原価は1,000円-720円=280円

(仕訳・決算時)
借方 金額 貸方 金額
仕入 1,000 試用品 1,000
試用品 280 仕入 280

翌期に繰り越される期末試用品残高は280円であり、翌決算時に仕入勘定への振替を行います。

(関連項目)
特殊商品売買の仕訳一覧

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