現金主義と発生主義

収益や費用をいつの時点で認識するかについては、大きくわけて現金主義と発生主義という2つの考え方があります。

認識基準 内容
現金主義 現金の収支の事実をもって収益・費用を認識します。すなわち現金を入手した時点で収益を計上し、現金を支払った時点において費用を計上します。
発生主義 経済活動に伴う価値の増加、または費消の事実の発生に基づいて収益・費用を認識します。すなわち、現金の収入・支出の前段階である、経済的な活動による価値の増加・消費時点で収益・費用を計上します。

現金主義や発生主義に基づく会計をそれぞれ現金主義会計・発生主義会計といいます。なお、企業会計原則第二・一Aでは「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。(以下略)」とあり、現行の制度会計においては発生主義が原則とされています。

現金主義会計の特徴

上記のとおり、現金主義は実際の現金の収入・支出に基づいて収益・費用を計上するものであるため、収益・費用の認識が非常に容易であり、その測定は確実性の高いものとなります。現金主義の利点と問題点をまとめると以下の通りになります。

(現金主義の利点・メリット)
現金収支に基づいて収益費用を計上するため、収益費用の認識を客観的に行うことができる。
現金主義によって計上される収益は必ず現金的裏付けあるため、確実なものであり、安全性がある。
現金収支に基づいて収益費用を計上することは、実務的にも記帳が容易である。
(現金主義の問題点・デメリット)
信用取引が行われている場合、販売や役務提供時期と収益計上時期が異なる。
固定資産や在庫が存在する場合、これらに資金を投入した時期に全額費用計上されるため、企業の適切な収益力を把握することができず、期間比較や他社比較が不可能となる。

今日の企業活動において、信用取引や固定資産の存在は非常に大きく、現金主義会計の容易さや確実さを考慮しても企業会計において現金主義を全面的に採り入れること現実的ではありません。現在の制度会計では現金主義会計はほとんど採用されていません(ただし現金主義は記帳を容易に行うことが可能であるため、小規模な個人事業主などは事前に届け出をすることなどにより、税務上現金主義会計を採用することはできます)。

発生主義会計の特徴

発生主義とは、現金収支ではなく、企業活動による経済価値の発生や費消の事実に基づいて収益を認識するものであり、現在の制度会計では発生主義を原則的収益費用認識基準としております(企業会計原則第二・一A等参照)。現金主義の利点と問題点をまとめると以下の通りになります。

(発生主義の利点・メリット)
経済価値の発生や費消の事実に基づいて収益・費用を認識するため、企業の経済活動の実態をより反映した期間損益計算が可能となる。
経済価値の発生や費消の事実に基づいて収益・費用を認識するため、在庫や固定資産を有する企業間においても比較可能な損益計算を可能とする。
(発生主義の問題点・デメリット)
経済価値の発生・費消の事実の認識は、単に現金収支の事実に依拠する現金主義と比較し、その認識に客観性が欠ける。
発生時点における収益認識は、現金収入を伴うものではないため、現金主義と比較し確実性や安全性に欠ける。
現金主義においては現金収入・支出時点における記帳だけで完結する取引であっても、発生主義ののもとでは、発生時点および現金の収入・支出時点の2回の記帳が必要になるなど、実務上の記帳手続が複雑化する。

上述のとおり、現行制度会計では収益・費用の認識は発生主義を原則としていますが、特に収益の認識に関してはより慎重性が要請されるのも事実です(企業会計原則第一・六 保守主義の原則)。したがって、現行の制度会計では、損益は発生主義を原則としつつ、収益に関しては実現収益のみを計上することを示し、実現主義を採用することを要請しています(企業会計原則第二・一A、第二・三B参照)。

(関連項目)
実現主義とは

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