資本連結における評価差額と税効果会計の基礎(連結会計)
資本連結の手続きにおいて、親会社は子会社の保有する資産および負債を時価評価し、その際に生じた評価差額については子会社の純資産として処理し、親会社の投資と相殺消去することになりますが、子会社の資産・負債を評価替えすることにより連結財務諸表上(会計上)の資産・負債の金額と個別財務諸表上(課税所得計算上)における資産・負債の金額が異なることになるため税効果会計を適用することが必要となります(簿記検定などの問題で資本連結によって生じた評価差額に税効果会計を適用するかどうかは問題の指示に従ってください)。
なお資本連結によって生じた評価差額にかかる繰延税金資産・繰延税金負債の計上については『法人税等調整額』を使用せず、実際の資産・負債の時価評価差額に実行税率を乗じた額を『評価差額』から減額する形での計上となります。
例えば資産の帳簿価額が10,000円、支配獲得日における資産の時価が12,000円で実効税率が30%とした場合の評価差額の計上時の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資産 | 2,000 | 評価差額 | 1,400 |
繰延税金負債 | 600 |
※ 繰延税金負債:時価評価差額2,000円×実効税率30%=600円
※ 評価差額:時価評価差額2,000円-繰延税金負債600円=1400円
繰延税金資産・繰延税金負債は評価差額から控除する形で計上しますので、上記のように評価差額が貸方(向かって右)に計上される場合には『繰延税金負債』を、上記の仕訳とは逆に評価差額が借方(向かって左)に計上される場合には『繰延税金資産』として計上することになります。
仮に上記の仕訳の資産の時価が8,000円であったとすれば評価差額計上時の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
評価差額 | 1,400 | 資産 | 2,000 |
繰延税金資産 | 600 |
税効果会計を適用する場合における資本連結の一連の手続きについて、具体的な数値を使ってみていきましょう。
(数値例-子会社の資産負債の時価評価と資本連結の仕訳の基本形)
甲会社が乙会社の発行した株式の100%を150,000円で取得して乙社を子会社とした。支配を獲得した日における両社の個別財務諸表が以下のようであったとき、支配獲得日において必要な連結上の仕訳を示すとともに、連結貸借対照表を作成しなさい(実効税率は30%であるものとし、評価差額には税効果会計を適用すること)。
諸資産 | 500,000 | 諸負債 | 400,000 |
乙会社株式 | 150,000 | 資本金 | 250,000 |
諸資産 | 100,000 | 資本金 | 100,000 |
なお、支配獲得日における乙社の諸資産の時価は120,000円であるものとする。
1.子会社の資産・負債の評価替え
子会社乙社の保有する資産の支配獲得日の時価が120,000円となっていますので、帳簿価額100,000円との差額である20,000円を資産として追加で計上し、乙社の資産を時価に評価替えします。なお本設問では税効果会計を適用する必要がありますので、評価差額についてはこれに実行税率を乗じた価額を減額して計上することが必要となります。
(計算式)
1.時価と簿価との差額:時価120,000円-簿価100,000円=20,000円(帳簿価額を増加させる必要があるため資産を借方に追加で計上)
2.税効果会計の適用:20,000円×実効税率30%=6,000円(資産の追加計上の反対側である貸方に計上するため繰延税金負債として計上)
3.評価差額:20,000円-繰延税金負債6,000円=14,000円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
諸資産 | 20,000 | 評価差額 | 14,000 |
繰延税金負債 | 6,000 |
この評価替えの仕訳により、子会社である乙社の貸借対照表は以下のようになります(評価差額が子会社の純資産として処理します)。
諸資産 | 120,000 | 繰延税金負債 | 6,000 |
資本金 | 100,000 | ||
評価差額 | 14,000 |
※ 繰延税金負債は負債のため純資産である『資本金』『評価差額』より上に表示してあります。
2.親会社と子会社の個別財務諸表の合算
次に評価替え後の親会社甲社および子会社乙社それぞれの個別貸借対照表をもとにして支配獲得日における連結貸借対照表を作成します。連結貸借対照表を作成するに際し、まず親会社と子会社の個別財務諸表(評価替え後の個別貸借対照表)を単純合算します。
親会社と子会社の個別財務諸表の合算は、単純に資産と負債とを合算すればよいですので、合算後の貸借対照表は以下のようになります。
諸資産 | 620,000 | 諸負債 | 400,000 |
乙社株式 | 150,000 | 繰延税金負債 | 6,000 |
資本金(甲社) | 250,000 | ||
資本金(乙社) | 100,000 | ||
評価差額 | 14,000 |
上記の資産・負債は甲社と乙社の資産と負債を以下のように合算して算定しています。
諸資産:甲社の諸資産500,000円+乙社の諸資産110,000円(評価替え後)=620,000円
諸負債:甲社の諸負債400,000円+乙社の諸負債0円=400,000円
なお、この後の手続きを行う上で必要な数値を抜き出しやすくするため、甲社が保有する乙社の株式(150,000円)と子会社の純資産(乙社の資本金100,000円と評価差額14,000円)および繰延税金負債6,000円は他の資産や負債・純資産とは合算せずにそれぞれ別々に表示してあります。
2.投資と資本との相殺消去
親会社の子会社に対する投資と子会社の純資産とは、これを一つの企業集団としてみた場合、企業集団内部の資金移動にすぎません。したがって、連結財務諸表を作成するにあたり親会社の子会社に対する投資(甲社の所有している乙社株式150,000円)と子会社の純資産(乙社の資本金100,000円および評価差額14,000円)とを相殺することになります。
なお評価差額については税効果会計適用後(繰延税金負債を控除した後)の金額である14,000円を使って相殺しますのでご注意ください。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金(乙社) | 100,000 | 乙社株式 | 150,000 |
評価差額(乙社) | 14,000 | ||
のれん | 36,000 |
3.連結貸借対照表の作成
最後に支配獲得日の連結貸借対照表を作成します。作成方法は上記1で作成した貸借対照表(甲社と乙社の貸借対照表とを単純合算した表)に上記2の連結修正仕訳を加味すればよいことになります。
諸資産 | 620,000 | 諸負債 | 400,000 |
のれん | 36,000 | 繰延税金負債 | 6,000 |
- | - | 資本金 | 250,000 |
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